時代も愛情も“後になって分かること”
インターネットも経済格差も、9.11も予期できなかった1979年。そこが時代の転換期なんて、すべては後になって分かること。
リアルタイムでその時代を生きる人に自覚できないことと同様、ジェイミーは思春期をその時に自覚できない。性の目覚めも母離れもパンクロックに夢中になることも、すべて“没頭”しているからだ。
その一方でドロシアも、ジェイミーへの愛情に“没頭”していることに気づいたのだろう。息子のことを後になって分かりたくない。今、何を思って何が好きで、どういう男の子なのかが知りたい。だからこそ、あくまで他人であるアビーとジュリーにある種の“レポート”をお願いした。親子だからこそ遠く、他人だからこそ近い距離を自覚したゆえの行動だろう。
「子離れしなきゃ。私ひとりの支えじゃとても足りないわ。」
親子の関係性の限界を知っているからこそ、心から愛する息子から自ら距離を置く覚悟を持つ。「自分だけが息子を理解している」なんて思い上がりが、思春期の子どもにとって一番鬱陶しいことを分かっている。息子はその時、理解できなくても、今このような作品を作ることで自分以外の他人にも母親の愛情を分からせてくれる。
これはマイク・ミルズのただの半自伝的物語に収まらない。
母子の新しい形の愛情表現を提示する作品だ。
息子を知るためにライブハウスに入り込む母親の姿は、なんて愛おしいものだろう。興奮する息子と、困惑する母親。ひとつの時代のカルチャーを息子/母親視点で味わえる点でも新しく、あらゆる感性を刺激してくる。
ストーリー
1979年、カルフォルニア州南部のサンタバーバラ。シングルマザーのドロシア(アネット・ベニング)は、思春期真っ只中の15歳になるジェイミー(ルーカス・ジェイド・ズマン)の育て方に悩んでいた。
そこで、ルームシェアをしているパンクな写真家・アビー(グレタ・ガーウィグ)と、ジェイミーの幼馴染で色気たっぷりのジュリー(エル・ファニング)に、息子の成長を手助けしてほしいと頼み込む。
パンクロックやニューウェイヴなど様々なカルチャーが産声を上げ、時代が転換期を迎える中で生きる三人の女性とジェイミーの特別な夏が始まる――。
6月3日(土)、丸の内ピカデリーほか全国ロードショー
監督・脚本:マイク・ミルズ
キャスト:アネット・ベニング、エル・ファニング、グレタ・ガーウィグ、ルーカス・ジェイド・ズマン、ビリー・クラダップ
配給:ロングライド
原題:20TH CENTURY WOMEN/2016年/アメリカ映画/119分
URL:『20センチュリー・ウーマン 』公式サイト
次回は<アカデミー賞ボイコットで話題騒然!夫婦のすれ違いが意外な顛末を迎える復讐サスペンス『セールスマン』>です。
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