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  • 2017.03.30

アカデミー賞で話題騒然!孤独な男を唯一照らす月明かり『ムーンライト』

シャロンは麻薬に溺れる母親と二人で暮らし、学校ではいじめられている。そんな中救ってくれたのは、唯一の友人ケヴィンだった——。米アカデミー賞作品賞を受賞した純粋な愛の物語。

映画 バリー・ジャンキンス ファントム・フィルム Moonlight たけうちんぐ ブラッド・ピット ラ・ラ・ランド アカデミー賞
© 2016 A24 Distribution, LLC

 自分探しだったり、自分の居場所を求めて彷徨い続ける人を鼻で笑う人がいるかも知れない。
だが、とことん存在を否定され、家庭でも学校でも行く宛てを失い、孤独に打ちひしがれた人が必死に求めることを、どうか笑わないであげてほしい。

 そんな主人公が涙を流し続ける『ムーンライト』が自分とは全く関係ないと言える人は、よほどの幸せ者だろう。

 今年の米アカデミー賞で“受賞作品の読み違え”という前代未聞のハプニングで広くタイトルを知られることになり、『ラ・ラ・ランド』を押しのけて作品賞を受賞した本作。

 プロデューサーとして『それでも夜は明ける』でも作品賞を獲得したブラッド・ピットが製作総指揮を務め、長編2作目となるバリー・ジェンキンスが監督を手がける。
主人公・シャロンを3つの時代に分けて3人の俳優が演じ、その母親・ポーラ役に『007』シリーズのナオミ・ハリス、麻薬ディーラーのフアン役にマハーシャラ・アリが名を連ねる。

「泣きすぎて、自分が水滴になりそうだ」

映画 バリー・ジャンキンス ファントム・フィルム Moonlight たけうちんぐ ブラッド・ピット ラ・ラ・ランド アカデミー賞
© 2016 A24 Distribution, LLC

 物語は三部構成で、シャロンの少年期“リトル”、ティーンエイジャー“シャロン”、成人期“ブラック”とそれぞれの時代の呼び名がタイトルに使われている。

 1980年代のマイアミで、黒人で、貧乏で、ゲイ。多くの日本人には馴染みのない世界でも、シャロンの心情になぜこうも寄り添うことができるのか。家庭は荒れ果てて、クラスメイトは暴力で阻害してくる。

 そんな地獄のような日々でも唯一の光を照らしてくれるケヴィン。彼と眺める月明かりのシーンは、目が閉じても浮かび上がるくらいに美しい。そこで「泣きすぎて、自分が水滴になりそうだ。」と感情を吐き出し、その絶望の中の希望がシャロンの眺める景色の中で描かれる。

 それは場所も時代も関係なく、“美”は時としてすべてを超越してくる。過酷な運命に負けることなく、色彩豊かな映像美が優しくシャロンの陰を明るく照らしてくれている。

   

「お前は一体何者だ?」―1人の尊厳を問う

映画 バリー・ジャンキンス ファントム・フィルム Moonlight たけうちんぐ ブラッド・ピット ラ・ラ・ランド アカデミー賞
© 2016 A24 Distribution, LLC

 第三部“ブラック”期で、シャロンは平穏な暮らしを望む人なら誰でも一歩引くような、コワモテの体格に変貌を遂げている。
だが、その身体を作り出したのは世間の誤解。誰からもバカにされず、虐げられないために身体で防御した。罪なき者が背負った罪から生まれた、哀愁を持った威圧感だ。

 すっかり変わり果てたシャロンに再会したケヴィンは「お前は一体何者だ?」と問う。
自分が何者なのか、即答できる人はいるだろうか。それを証明するのは職業でも地位でもなく、ましてや性別なんかじゃない。

 いくら年齢を重ねてもすぐに俯く癖が直らず、目に涙を溜める…そんなシャロンが何者であるか、尋ねたケヴィンが一番知っているはずだ。
月とそれを照らす太陽のような二人の友情を超えた関係に、今度は観ている我々が泣きすぎて水滴になりそうだ。

 アカデミー賞で『ムーンライト』が作品賞を受賞したのが、本編を観るとますます劇的に思えてくる。
本作の監督も脚本家もシャロンと同じように育児放棄され、過酷な環境に育ったという。その二人が、世界中が注目するエンターテイメント界の頂点に立ったこと自体がまさに『ラ・ラ・ランド』のように夢溢れる物語だったのだ。

 月は光を浴びている部分しか見えないが、その闇に隠れている部分を本作は見せてくれる。

 映画を観ることとは、他人に対する想像力を豊かにするためなのかも知れない。
住む場所も立場も人種も違うシャロンの心の中に入り込み、葛藤を共有する。それも作品が為せる技であり、人がもたらす希望でもある。

   

ストーリー

 マイアミの貧困地域で暮らす、内気な少年・シャロンは学校では“リトル(チビ)”と呼ばれていじめられ、家に帰ると麻薬常習者の母親・ポーラから育児放棄されていた。

 そんなシャロンに優しく接してくれるのは、近所に住む麻薬ディーラーのフアンと、唯一の友達・ケヴィンだけだった。シャロンはケヴィンに友情以上の感情を抱くようになるが、その思いを誰にも打ち明けられずにいた。

 やがて10代になったシャロンは、相変わらず学校でいじめられていた。ポーラの麻薬中毒はますますエスカレートし、ケヴィンが傍にいながらも行き場を失くした日々の中、ある事件が起きる――。

   

3月31日(金)、TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー

監督:バリー・ジャンキンス
キャスト:トレバンテ・ローズ、アンドレ・ホランド、ナオミ・ハリス、ジェネール・モネイ、アシュトン・サンダース、ジェハール・ジェローム、マハーシャラ・アリ
配給:ファントム・フィルム
原題:Moonlight/2016年/アメリカ映画/111分
URL:『ムーンライト』公式サイト

Text/たけうちんぐ

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ライタープロフィール

たけうちんぐ
ライター/映像作家
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