タイトルからヤクザや殺し屋を想像したのに、まさかのまさか。
ひっくり返った。
“一番悪い奴ら”の正体は、なんと警察だった。
市民の安全を守るはずの存在が悪い奴ら、しかも実話に基づいているとは一体…。
映画だからこそ許される。
というより、映画にしかできない。
テレビだと苦情が殺到。
ネットだと大炎上が必至。
クレームが殺到するレベルの不謹慎な悪事が詰め込まれた、映画だけが描くことを許された実録モノに一瞬たりとも目が離せない。
実在の事件を基にした 『凶悪』で一躍脚光を浴びた白石和彌監督がまたも実話に挑む。
2002年に北海道警察で起きた“日本警察史上最大の不祥事”とされた「稲葉事件」を題材に、一人の正義感溢れる刑事の波乱万丈の人生を描く。
悪の手に染まっていく主人公の刑事・諸星を、最近では 『リップヴァンウィンクルの花嫁』の好演が記憶に新しい綾野剛が演じる。
中村獅童、YOUNG DAIS、植野行雄、ピエール瀧といった一癖も二癖もある顔ぶれが勢揃いし、“登場人物の9割がクズ”な実録映画を派手に盛り立てる。
22歳から48歳までを演じ切る綾野剛
とにかく綾野剛が強烈だ。 彼の演技に引っ張られるように物語が進み、史上最低の刑事であるはずなのに諸星の魅力にどんどん取り憑かれていく。
22歳から48歳まで男の半生記を一人で演じ切る器量にヤラれる。
22歳の柔道部上がりの諸星は未熟ながらも正義感に溢れ、女性にもウブで可愛らしい顔つきをしている。
それは31歳で拳銃を横流しして、暴力団と手を組む憎たらしい顔つきとはまるで別人だ。
やがて48歳となった白髪混じりの落ちぶれた中年の姿からは加齢臭すら漂わせ、何人もの役者を見ているかのような百面相の演技に度肝を抜かされる。
諸星のキャラクターは“単なる悪い奴”だけでは済まされない。
弱さを隠すために強気を装い、背伸びするように立ち回る姿はどこか人間臭くて愛おしい。
違法捜査にクレームを出した暴力団の黒岩と面会するシーンは、怯えを隠すために顔をブルブル震わせながらも激しい剣幕で怒鳴る。
大胆に見えて繊細な一面を所々で垣間見せるのが、女性心をくすぐりそうで同性としてなんだか悔しい。
めちゃくちゃ悪い奴なのに、その悪事を心のどこかで応援してしまうのが本作の最も危ういところなのです。
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