中年男の妄想 VS 不倫女の現実

 フランス映画と聞くと、美しい情景と高貴なキャラクターを思い浮かべる。が、本作は、残念ながら良い意味で期待を裏切ってくる。

 若妻を“監視”するマルタンは、はっきり言ってしまえば、ただの変態。
といっても気持ち悪さはない。奥さんと息子に若干飽きられながら、好きな小説と現実の女性を重ね合わせてしまう、そんな中年男の姿がどこか愛おしい。まるで十代の少年のようにボヴァリーを見続け、その官能的な魅力に囚われる。

たけうちんぐ 映画 死ぬまでには観ておきたい映画のこと ボヴァリー夫人とパン屋 (C) 2014 – Albertine Productions – Cine-@ – Gaumont – Cinefrance 1888 – France 2 Cinema – British Film Institute

 監視=凶器じみたキャラクターを想像するが、彼の語り口は優しい。
なぜなら、彼は、彼女の人生が素晴らしいものになるよう願っているからだ。決して『ボヴァリー夫人』のように服毒自殺する結末を求めていない。
だからこそ、穏やかな性格のマルタンが、ボヴァリーがネズミを退治するための薬品を買おうとすると、言葉を荒くして止めに入る。その様子が、とても微笑ましいのだ。

たけうちんぐ 映画 死ぬまでには観ておきたい映画のこと ボヴァリー夫人とパン屋 (C) 2014 – Albertine Productions – Cine-@ – Gaumont – Cinefrance 1888 – France 2 Cinema – British Film Institute

 少しでも小説に近づかせないようにするマルタンと、小説を読んだことがないボヴァリー。
この二人の心のすれ違いが、ブラックユーモアを交えつつ、おもしろおかしく描かれ、「男の妄想がいかに愛に生きる女の現実と噛み合わないか」力説されているように感じる。