しかし、社内には1人だけ、その例外となる未婚女性がいた。社長を含む創業メンバーの1人で、唯一の女性幹部だった。聡明なのは当然だが、目を引くのはその美貌だった。
天海祐希さんをイメージしてほしい。凛とした立ち姿、完璧に手入れされた肌や髪。投資家としても才能があり、40前にして相当な資産を手に入れていた。
あまり自分のことを話さない人だったが、彼女に関してだけは「あの人は結婚する必要ないもんね」とみんなが口を揃えた。「できない」のではなく、「できるがしない」女と認められていたのだ。

「できない女」と「しない女」の組分けに女性本人の意志は関係ない。男がひれ伏す女でなければ「できない女」。簡単な話だ。

当時のわたしは仕事はできないし、まぁまぁブスだし、他に秀でた才能もないし……と全く自信を持てずにいた。その上「結婚できない女」の焼印まで押されたら、もう立ち上がれる気がしなかった。
そういう意味では自分のスペックを少しでも上げるために、迫りくる「できない女」の焼印を既婚者バリアで回避したかったのだ思う。

不審者印のシールは燃やせる

でも今は、「結婚できない女」のレッテルは焼印を押されるなんて大げさなことではなくて、知らない人から勝手にシールを貼られるくらいの出来事なのだと認識している。シールだけでも迷惑だが、ペッと剥がして捨てればいい。
それでも隙あらばシールを貼ろうとしてくる不審者は現れるだろうが、わたしたちにはその度に燃やす自由もある。
ついでに言うと、「結婚できない女」シールと同様に、彼らがジャッジする「結婚できるがしない女認定」シールにもそれほど価値はないように思う。彼らは「そんなんじゃこのシールはあげられないよ?」などともったいぶるかもしれないが、それを受け取ったところで税金は免除されないし、補助金が出るなんてこともない。頑張って手に入れるようなものではないのだ。

「ここのおばさんたちみたいになる前に、さっさと結婚しちゃいなね。」

そう宣った男性社員は当時30代後半の独身で、「おばさん」呼ばわりした女性たちの平均年齢を超えていた。シール貼りの不審者なんてそのレベルのアレなのである。
こいつの上司たちの前で、「出世と引き換えにここのおっさんたちみたいにハゲたんじゃたまりませんもんね」などと言ってやってもよかったなと思う。悪気もなければ配慮もない、IQ3のアホみたいな顔で。

Text/白井瑶

初出:2017.08.31