自分を好きになってくれない人や身勝手な人ばかり好きになり、不安定な恋愛関係に陥ってしまう女性たちへ。
「私は最初から私を好きじゃなかった」――自己肯定感の低い著者が、永遠なるもの(なくしてしまったもの、なくなってしまったもの、はなから自分が持っていなかったもの)に思いを馳せることで、自分を好きになれない理由を探っていくエッセイ。
永遠なるものたち013
「年越し」
冬のはじまりの匂いをなんて言おう。あの、好きな人の指先で心臓のあたりをくすぐられたような。私の場合、どういうわけかそれは高いものを見上げた時、ふいに訪れます。たとえば、表参道のイルミネーションや、代々木上原にある背の高いモスクの塔を見上げる時。どちらも大通り沿いにあって、空がひらけています。ひんやりと澄んで、それでいて甘いようなあの空気の匂い。
あの甘さとくすぐったさの中には、クリスマスの気配が含まれています。デートやパーティや、その時に交わされる愛情やプレゼントへの華やかな興奮が、空気に混ざっているとしか思えません。実際に酔ってしまいそうな街の空気を吸うだけで、こどもの頃のクリスマスは特別なものになりました。まだ私の人生に現れていない素敵な男性たちや、大人びた女友達の気配がありました。
私には参加できなかった、ロマンチックな夜。
クリスマスのよいところは、すぐ後にお正月がやって来るところです。ケーキやシャンパンで甘ったるくなった気配が、清く締まる感じがします。特別さでいえば、クリスマスよりも年越しのほうが、もっとくっきりと特別でした。
いつもは早寝の父がまだ起きている異常事態や、テレビ番組の賑やかさも手伝って、夜が更けても目が冴えていて、自分が遅い時間に起きていることに興奮して、ますます目がさめて。