やりたいことはない。死にたい。
将来どうなりたいの? なんていう、しゃらくせー質問を向けられたミユちゃんは、
「は?」
と声に出した。全く浮かばないのか考えたこともないのか、ポカーンとしたのちに、それでも考えてくれた。そして、言った。
「無いっすよね。できるだけ早く死にたいですもん」
死にたいんだー、と、力無く相槌を打った。死にたいと思う気持ちは、私もどちらかというとわかる方だと思う。でも、20歳の子の口からそれを聞くと、どうも体中の力が抜けてしまった。
「1人でスッと姿を消したいですね。つまんなくなったら、安楽死できる国に行って、1人で死にたいです。早い方がいいっすね。」
なんでそんなことを言うんだよー、と茶化すと、「だって私の価値って、すぐ無くなりますもん」と続けた。
「今の私に価値があるってことは、わかってます。でも、歳とったらその価値消えますから。今こんなに何にもしてない私が、いい歳の取り方なんてできるわけないじゃないですか」
何もしてないかな? と異論を唱えると、バッサリと否定した。
「世の中舐めてるし、人生は運とタイミングだと思ってるから努力もしないし。目標もないっすからね。まあ、無理ですよね」
「お! じゃあ、これから人生頑張ってみるか!」と、これまたつまんないことを言ったら、「いやあ、めんどいっすねえ」と返された。
そうだよね、面倒だよね。
「発情されなくなったら無理なんで、若さは大事なんです。でも、どうせ歳を取るんで、歳とる前にマジ死ぬしかないっすね」
あー、もう、頼むからもう少しだけ生気のある声を聞かせてくれ! と、私のバカエピソードを繰り広げたり、ミユちゃんをツッコミまくったりした。大笑いしてくれるのに、「じゃあミユちゃんは・・・?」と水を向けると、「・・・はい?」とまた、真顔で返される。
ねえ、なぜなんだろう。どうしてこんなにも、人や世界を、何より自分を、信じていないんだろう。
「家族は大っ嫌いですし、母親からは手を上げられてましたし、小さい時から同級生や先生からはとにかく目の敵にされてましたしね。なんか、いつでも私がターゲットにされるんですよね」
家族にも友達にも恵まれず、先生にもいつもかわいがられなかった。だからこうなったんだよ! なんて安易なことは言いたく無い。何より、「いやー、わかんないっす」と自分のことを自分のことだと思ってないミユちゃんの本心は、探る方法がないように思った。彼女は、自分自身にあまりにも興味がない。
今、幸せな毎日
イキイキとした表情を見せてくれるのがセックスに関する話だけなので、せめてその顔が見たくて散々セックスへの思いを語ってもらった。
「セックスは、私の最大の娯楽です。好きとかより前に、ヤりたいっていう思いがくるんです。ヤりたい人とヤれたら最高ですよね。特に人間関係を作る気もないので、たくさんのヤりたい人と、ただヤってたいです」
この後お店で働くというミユちゃんは、ドレスに着替え、髪をアップしてもらい、本当に本当に綺麗になった。その姿は、うっとりするほどに綺麗だった。
スッピンの時にはガニ股で猫背だったことが信じられないくらい、スクッと立って、優雅な笑顔を浮かべる。この子と飲んだら楽しいだろうなあと思わせられる。
それなのに、出勤できる体制を完璧に作ったにもかかわらず、ある男からの「これから東京に来ない?」というLINEを見て、ミユちゃんは新幹線に乗り込んだ。
「私、男に関してのフットワーク軽いんですよね」
この言葉は嘘じゃなかった。「インタビュー終わったらすぐお店に返しますから!」と交わされた私とお店との約束も虚しく、ミユちゃんは東京に向かった。
「酒飲んでその先にセックスができれば、なんでも乗り越えられる気がするんですよね。だから今、毎日楽しいです」
なんでも乗り越えられるほどならば、そんなすごいことはない。
「快楽をオッケーにして何が悪いんだって。日本の人はセックスに関してちょっと消極的すぎますよね。私は、このままずっとセックスをしまくる人生がいいですね」
確かに、快楽を解放することは、何も悪くない。全然悪くない。
でもなんだろう、私の中に、まるで呪縛がかかったかのように、何かに取り憑かれたかのように、3日間、気持ちが落ち込んだ。
何かもっと楽しい瞬間がミユちゃんに訪れないだろうか、そんなことを思ってしまうのは、とても傲慢だろう。でもそう思わずにはいられなかった。誰かこの子を、猛烈に愛してくれないか。あとをひく、夜だった。
セックスとお酒をこよなく愛し、ワンナイトラブを繰り返す女の子に出会った。
普通の同世代が経験できないような場所で酒を飲み、出会わないような男たちと逢瀬を重ねている。
色んな生きる場所があるもんだ。
「12人のイナセなわたしたち」、まだまだ続きます。今まで5人の話を聞いて、思っていることがある。
それは、「みんな、何かを掴みたくて必死なんだなあ」ということ。人と一味違う職業の選択は、人より早く大人になっているように見えるかもしれない。でもそんなことない。蓋を開けてみたら、彼女たちだってまだまだ自分の生き方が定まってなんていないんだ。
でも必死に「私は大丈夫」って言い聞かせて、自分を理想の方向へと向けていく。“イナセ”の正体は、「今の自分とは違う何かになりたい」っていう大きな願望な気がしてきた。
ミユちゃん。彼女の生き方がどうかなんて言えない。でも、一年後に会った時、全然違うことを言ってそうな気がする。まだハタチ。いっぱいぶつかって、どんどん変わって、生きていこうや。
ねえ、どれだけ自分の欲望を解放して、あなたは生きたいですか? 何より、今、どれだけ寂しいですか?
歳取る前にデートもセックスも楽しみたいなら、今どき女の子から動くのもアリだと思いません? 「まじでイケメン多い!」と話題の《Poiboy》で、ハメ外して遊んでみるのもいいかも。
Text/舘そらみ
次回は<ドラマチックな人生にしなくていい。23歳看護師が「今が楽しい」と言える人生を送るようになるまで>です。
「私の話、面白くないですよね」と語る23歳看護師ハルコちゃん。彼女は自分の願いではなく、とある理由で看護師学校に進み、看護師となる。それでも彼女がいつも精一杯で、ものすごくバランス良く生きているのはなんでなんだろう。脚本家・舘そらみが本気なやつらにインタビューする本企画、今回は看護師ハルコちゃんに迫ります。