東京へ行き、80人の男と寝る。
キャバクラで働きだしたミユちゃんに訪れたのは、「干渉し合わない」という今まで味わったことのない理想的な人間関係だった。
「キャバクラで働いている人は、他人は他人って感覚の人が多くて、全く干渉してこないし、めっちゃ居心地いいんですよね」
ずっとずっと人付き合いが窮屈だったミユちゃんが、初めてめんどくさい人付き合いから解放された瞬間だった。1つ大きな足枷から解放されたミユちゃんは、どんどんやりたいことに素直になっていく。
お店で知り合ったお客さんに連れてってもらい、東京での遊び方を教えてもらったのだ。東京には、ミユちゃんの大好きなお酒とセックスが溢れていた。
「1人で週2で六本木に行って、飲み屋で出会った人とホテル行くっていうのが最近の生活ですね。ヤり終わって、タバコ吸って、寝て、はい楽しかった! みたいな」
とダルそうに語る。週2で新幹線に乗って東京に行く。そこには、それだけの価値が十分にあるという。
「だって有名人とか金持ちばかりいるし、飲み方がえげつないじゃないですか東京は。すげー楽しいですよ」
と、珍しく明るい声で、東京でナンパされたという俳優さんの写メを見せてくれた。その写真に写る俳優を、私は知らなかった。でもなんだか調べる気にもならなかった。行きずりで出会ったというミュージシャンや社長さんの名前も、そんなにノリ気で聞けなかった。
正直に言おう。
聞いているうちに、なんだか虚しくなってしまったのだ。東京はサイコーだといい、売れない芸能人に誘われたと喜ぶミユちゃんに、私はなんだか虚しくなってしまった。インタビューアー失格だ。
勝手に虚しくなるなんて私のエゴなのはわかってる。でも、東京を天国みたいに言うなよ! そこで会う“芸能人”が最高みたいに言うなよ! そんなダサいこと、言わないでくれよ! あんたは、幼い時から一匹オオカミでブレない、強い女志望の人間だったんじゃないんかい! なにフラフラしてんだよ!
その思いから、「なんかさー、将来どうなりたいとかあんの?」なんていう史上最高にくだらない質問をしてしまった。