逃れられない「良いママ」の呪縛

粉まみれの母子の写真に興味を引かれてクリックすると、その先には、「“良いママ”の呪縛から解き放たれる」「“ありのままで生きる”という魔法」といった文字が躍っています。どうやら、白い粉は小麦粉で、子どもと粉まみれになってクッキングすることによって、“良いママ”の殻を破って自由になるという、子持ち向けのコーチングの一種のようです。

「ああ、なるほど。彼女はそっちにいったのか」と思いました。が、別にそれは珍しいことではありません。なんせステージが変わるごとに困難が生じる女の人生。

これまでも、突然にスピリチュアルに傾倒して「わたしの中で天使が泣いている」とか「前世は巫女だった」と言い出した友人がいました。そこまで極端でなくても、占いを自然に嗜む女性はすごく多い。スピリチュアルなあれこれを一種のエンタメとして遊び、それこそ『ムー』や怪談を楽しめる人生のほうが、豊かともいえるかもしれません。

そういう世界に惹かれて、人生の中心を精神世界に置くのも、その人の人生です。だから、勧誘をしてきたり、こちらの考えを否定したりしてこない限りは、その友人が選んだ宗教を尊重することにしています。

けれども、白い粉にまみれている母子の姿を見れば見るほど、なぜだか悲しい気持ちになるわたしもいるのです。

服のまま海に飛び込んだり、酔っ払って裸足で歩いたり、そういう「バカバカしいちょっとした脱線」は、新しい自分になれたようでワクワクします。頭から粉をかぶることも、その延長にあるのでしょう。けれども、これに「いいね」するママたちは、結局のところ、母の呪縛のひとつである「子どものお菓子を手作りする」ことからは逃れられていない。

ママたちにとって、非常識だ、母親として失格だ、とそしりを受けないラインの内側にあることが安心感にもなって、挑戦するハードルが低くなっていることも、もちろん想像がつきます。しかし、「ありのまま、自由に、輝いていたい」という願いを持つ我々が、真剣に作った笑顔で粉をかぶることにすがり、囚われないといけない、この現実をなんとか突破していきたいと思うのです。

Text/大泉りか

初出:2018.10.20

次回は<夫婦の空気が一気に和らぐ!「プチ幼児プレイ」のすすめ >です。
1歳9か月になった息子さんの話せる言葉が増えてきて、大泉りかさんの家では「息子の真似」ブームに。ところが、赤ちゃん言葉で話す「プチ幼児プレイ」には、思わぬ効果もあったのです!