怒りが溢れた瞬間

さすがに2度目ともあって、仲間内ではしらけた雰囲気が漂いました。

1年以上も付き合っていた恋人に心変わりを告げられた上に、別れ話の時に「モンチッチを家に泊めた時に、オムライスを作ってくれて美味しかった」という余計な情報まで知らされたU。その落胆した痛々しい姿を見た元ヤンのYは、静かに怒りながら「あんたも男取られたクチでしょ。なんか言ってやったら?」と、わたしをけしかけました。でも、なにを言えというのでしょうか。「人の男を奪うのをやめろ」と言ったところで、惨めになるだけです。

結局、Uと恋人はよりを戻し、再び付き合い出したこともあって、モンチッチがしでかしたことは、なんとなくうやむやになりました。けれども、わたしの胸の内に、ふつふつと何かが湧き上がっていたことも確かです。それが爆発するキッカケとなったのは、近所の弁当屋で買ったからあげ弁当でした。

いつもは母親が弁当を持たせてくれることが多かったのですが、その日は面倒だったか材料がなかっただかで、出がけに「これでお昼買って」と500円を渡されたのです。それでからあげ弁当を買い、学食のテーブルで食べていました。するとモンチッチが近寄ってきて「もーらい!」と唐揚げをひとつ取ったかと思うと、ひょいと自分の口の中へと放り込んだのでした。

その瞬間、わたしの中で何かが溢れました。「は? 誰が食べていいって言った?」と怒りを込めていうと、モンチッチは「ごめんごめん!」と笑い交じりで謝ってきました。無視するように、ぷいと顔を背けると、困ったように「え、なに、なに。わたし、そんなに悪いことした?」と同席している皆に、苦笑いで尋ねました。

その鈍感さが、さらにわたしの怒りを掻き立てました。唐揚げをひとつ食べられたくらいでブチギレているわたしに、周囲が引いているのがわかりましたが、「謝られてももう遅いんですけど」と席を立ち、学食を後にして、その日以降、モンチッチと口をきくのはやめました。

銀座のOLとなったモンチッチ

その後、二度と交わることはなかった……わけではなく、口をきかなかったのもわずか半月ほどのことでした。すぐになし崩し的に和解を迎え、再び付き合いを続けることになりました。けれども、程なくして卒業を迎え、モンチッチは某短大に、わたしは4年制の女子大に進んだことで、しばらく交流は途絶えることになりました。

短大を出た後、モンチッチは某大手企業の子会社に就職して銀座のOLに、わたしは出版社に籍を置きながら、裸活動をしたり、ライターとして主にアダルトな原稿を書いたりするようになっていました。そしてその頃、学生時代に仲の良かった同級生たちが、「たまには会って飲もう」と声をかけてくれて、モンチッチと再会することになったのです。

久しぶりに会った時、銀座のOLとなったモンチッチは、髪の毛を伸ばし、カシュクールの花柄のワンピースを着るような女に変貌を遂げていました。

――次週へ続く

Text/大泉りか

初出:2018.06.23

次回は<幼馴染の「魔性の女」に見つけた、他の女と違うたった1つの特徴>です。
高校時代からずっと友達の彼氏を奪い続けてきた幼馴染。20歳年上のバツイチの男性という変わり種さえ、彼女に奪われました。どうして彼女は人の彼氏とばかり付き合うのでしょうか。「魔性の女」の秘密に迫ります。