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  • 2018.01.13

結婚を前提にしていたはずの空白の同棲期間、わたしは何をしていたのだろう

「2年経ったら結婚しよう」という約束だったのに、2年半経ってようやく結婚を前提に同棲。しかもそれから1年もの間、結婚の話はない。そんな空白の同棲期間は、大泉さんにとっても記憶に残らない日々だったようです。

結婚までの空白の2年間

自分の顔の前に真っ白な紙を掲げる女性の画像
by Porapak Apichodilok

 前回の話に、ひとつ私の勘違いがありました。「2年経ったら結婚しよう」と言っていた恋人と、2年半経った2007年の春にようやく同棲を開始したころ、結婚の話が具体化して、その翌年5月に式を挙げる予定になった……と思っていたのは誤りでした。当時の日記を読み返してみたところ、同棲開始から式予定までの間にはもう1年ありました。正しくは09年の5月に式の予定だったのです。

 では、「結婚を前提」としながらも、ただ一緒に住んでいるだけだった空白の2年間、いったい何をしていたのか。あまり記憶にありません。
早朝に起きるか、もしくは徹夜のまま釣りに行き(一番釣れるのは日の出前・日の入り後なのです)、昼ごはんを食べに家に戻り、仕事をして、夕食の準備を終え、また仕事。22時ごろ彼が帰ってくると、一緒に夕食をとって、食後はビールを飲みながら朝方まで仕事をする、という生活でした。

 休日は、愛犬を連れて恋人と一緒に海辺を散歩し、夕日が海に落ちるのを見て、夜は家で食事をする。そういえばその頃、わたしは着物に目覚め、自分で着付けをしては、鎌倉あたりまで足を延ばしたりもしていました。どうですか、素敵な生活だと思いませんか?

 “正しく、美しい生活”をしている充足感がありました。一方で、まったく自分らしくないとも思っていました。誰かの書いた脚本を演じているようでした。その脚本を書いたのは、わたしのはずなのに。

“初めて”を求めてくる嫉妬深さ

 けれども、神奈川に引っ越したことで、彼との諍いの種がひとつ減りました。

 もともとわたしは東京生まれの東京育ちです。だから、東京のあらゆる街に、様々な想い出があるのです。一方で彼は、大人になってから憧れを持って上京してきた人でした。しかし、生活が立ち行かず、わずか数年で神奈川へと引っ越した経緯がありました。だから“東京”の経験値が高いのは、当然わたしのほうです。それは仕方のないことなのに、週末のデートの計画を立てる時、わたしが「そこは行ったことがある」と言うたびに、彼はいちいち嫉妬してしまうのです。

 付き合いたての頃、まさか彼がそんなことで傷つくだなんて夢にも思っていないわたしは、毎度毎度、「池袋? いいよ。懐かしいなぁ。友達と最初に行った映画館は池袋だったし、中学生の頃のデートといえば、サンシャインに行った後に東急ハンズをぶらぶらすることだった」などとマイヒストリーを語っていました。わたしのバックボーンを彼も知りたいだろうと思っていたのです。
しかし、それはわたしの勘違いでした。業を煮やした彼にある時「東京のどこに行っても想い出があるのは嫌だし、それを聞かされるのもつまらない」と言われ、ようやく「嫌だったの!?」と気が付いたのでした。

 彼のこの“初めて”欲求は、下半身事情にも同じことが言えました。わたしに、少なくない人数の男性および女性との経験があること、SMや乱交や3Pといった奔放なセックスに興じていた過去があることも、彼にとっては許せないことでした。わたし自身が他人の性経験を聞くことにワクワクする性質なので、わざわざ聞いてくる恋人もそうだと思い、これまたベラベラとマイヒストリーを語ると、彼のほうは嫉妬でイライラする。

 このすれ違いの大本には、わたしの思い込みがありました。「わたしを選んだからにはもちろん、純粋無垢な女性ではなく、様々な経験を経てきた女性が好きに違いない」と信じて疑いもしていなかったのです。

 わたしたちは、付き合えば付き合うほど、互いに深手を負う相性なのでした。人生の経験値に誇りを見出すわたしは女の過去に嫉妬しない男性を選べばいいのに、むしろ嫉妬深いタイプの相手を選んでしまう傾向にある。それは、嫉妬深い相手のほうが「愛されている」という実感を持てるからです。そして、嫉妬深いのにわざわざ嫉妬する要素が豊富な相手を選ぶ彼は、もしかして、嫉妬することでとても興奮を覚える性癖だったり、支配出来そうにもない相手を従属させることでようやく愛情が満たされるタイプだったりするのかもしれません。

 とにかくそういう前提があったので、湘南の街で暮らすことは彼にとって、わたしを自分の色で塗り替えるかのような、わたしのこれまでの人生に自分を上書きするかのような気持ちがあったのではないかと思っています。そしてわたしのほうも、彼が嫉妬する要素を消すことで落ち着いて生活が出来るのならと思い、なんの由縁もない湘南の街で、「好きな男性とともに海辺で落ち着いた暮らしを送る」という脚本を演じようとしていました。

 これが、1年すっ飛ばしてしまうほど記憶の曖昧な2年間です。その間にわたしは30代を迎えたのでした。

――次週へ続く

Text/大泉りか

次回は<結婚準備を何もしない彼を、なぜわたしは許してしまったのか?>です。
書類、結婚式、挨拶…やることがたくさんの結婚準備。なのに仕事で忙しい彼が、計画に非協力的で頼りなく、何もしてくれない…という悩みを持つ女性は多いもの。大泉りかさんは、そんな彼を許して自分で抱え込んでしまったばっかりに、不満が爆発してしまいました。

ライタープロフィール

大泉りか
キャバ嬢、SMショーのM女、ボディペインティングのモデルなどの経歴を経て、現在は官能小説家、ライトノベル作家。
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