「手練手管」に男は気づいていないのか

 そんなことを疑うのは、わたしの性格がひねくれているせいかもしれません。しかし、あからさまなのです。彼女のことを放って盛り上がっている我々に対する、無言の抗議のようにも思えます。そんな彼女の意を感じたわたしの頭に浮かんだのは「手練手管」という言葉でした。

 手練手管というと「遊女が客に惚れさせるテクニック」が思い浮かびますが、みなさん、お持ちですか? 残念ながら、わたしは持っていません。駆け引きが面倒くさいタイプなので身に着けようと考えたこともなかった……というか、関心すらなかったのです。けれども、よくよく注目していると、女性がそれらしいテクニックを使っているところを、度々目にします。「寒い~、上着貸して」と男性のジャケットを奪い取って着たり、初対面の男性に、オリジナルなあだ名を付けたり、そう親しくもないのに、下の名前を呼び捨てで呼んだり、帰り際に「じゃあね!」と男性に手を差し出して握手を求めたり……その度に「おお、すげい」とあっけに取られ、そして思うのです。そのテク、いったいどこで習ったの?と。

 けれども、そういうテクニックって、男性には本当に効くんですよね。「昨日の夜さぁ、〇〇くんにオチンチンで顔をバシバシーってビンタされる夢を見ちゃった(笑)」とのたまった女性に遭遇した時は「この人、すごいこと言うな」と面食らいましたが、もっと驚いたのは、言われたほうの男性が、まんざらでもない感じだったことです。男性の辞書には「あざとい」という単語がないのか。

 ある時不思議に思って、「女のそういうテクって、受け入れられるものなの? そもそも、テクだって気が付かないの?」と知り合いの男性に聞いてみたところ、「テクであっても、そういうテクを自分にしてきてくれるのが嬉しい」と返ってきて、なるほどと納得しました。騙したつもりが、騙されていてくれているってこともあるのか。男と女の駆け引きは、まことに複雑なものですね。

Text/大泉りか

次回は <「自分の機嫌と関係なく楽しくしよう」と思えない人なんて一緒にいる価値がない>です。
家にはいないけれど、家族の頂点にいた父。その父に言いなりの母。自分の好きなことを両親にさせてもらえなかったわたし。そして弟、妹。“機嫌のいい人”がいない家で育った大泉りかさんは、大人になってから付き合った恋人がいつも不機嫌であることもふしぎに思いませんでした。そんな大泉さんの現在の夫婦生活とは?