• love
  • 2017.05.20

別れてくれない元恋人と新しい恋人との台湾旅行…彼はわたしが壊したんじゃなかった

2009年、台湾。そこは大泉さんの人生が大きく変わることとなった土地でした。結婚寸前で破局、なのに元恋人がなかなか別れてくれないという問題を抱えていたのに大泉さんがつらくなかったのは、新しい男性がいたから。元恋人ともなかなか行けなかった海外旅行でしたが、その直前に届いたメールに書かれていたのは……。

別れてくれない元恋人と、新しい恋人

公園の遊具に座るスキニージーンズを履いた長い黒髪の女性の画像
by xusenru

 7年ぶり3度目の台湾に行ってきました。単純に渡航した回数では韓国やタイには負けますが、台湾はわたしにとって、ちょっぴり特別な国でもあります。

 2009年。その年はわたしにとっては、人生が変わった年でもありました。
結婚寸前まで行った恋人と破局し、同棲していた家を追い出されたわたしは、仕方なく両親に頭をさげて、ひとまず実家に出戻ることになりました。実家に暮らしているのは、シングルマザーの妹とその娘、そして母と父。
22歳で一人暮らしを始めて以来、盆正月でさえめったに顔を出すことのなかった実家は、離れていれば大切に思えなくもない場所ですが、そこで暮らすとなるとまっぴら御免というのが正直なところ。自分の選んだ場所で生きることを人生の最優先事項に置いているわたしにとっては、そんな場所に出戻ることは敗北であり、最悪の事態にほかなりません。

「実家で上手く暮らせるのか」ということに加えてもうひとつ、わたしは問題を抱えていました。それは、恋人がいまだ別れることを了承してくれていないことでした。毎晩のように電話を掛けてきては、「俺の話を聞いてくれ」という懇願からの恨み言、罵倒、泣き落としに脅しとエモーションのフルコース。
電話に出なければ済む話ですが、飼い犬を人質にとられている状態ではなかなかそれも難しく、また、その頃のわたしは「話せばきっと、理解して納得してもらえる」という希望を持っていたのです。

 そんな状況でも、むしろ不思議と機嫌が良かったのは、束縛が強かった恋人の抑圧から解放されたことで、忘れていた自由を取り戻した喜びが大きかったからだと思います。自分が選んだはずの恋人との暮らすよりも、行き場がないからと仕方なく戻った実家での暮らしのほうがずっと楽だったことにも、気が付かないうちにどれだけの無理をしていたかを思い知らされました。

 そして、わたしがへこんでいなかった最大の要因は、新しい恋人(のような人)の存在でした。その男性――付き合うのは、すべてのことが片付いてからにしようと取り決めていたのですが、ややこしいのでこの文中では彼と呼びます――に救われながら、恋人がわたしのことを諦めてくれるのを待っていたのです。

前の恋人とは行けなかった海外旅行へ

 そんな最中、彼に旅行に行かないかとの誘いを受けました。そもそもわたしは旅好きで、学生時代はバックパックを背負って、ふた月の間、ヨーロッパを回っていたことだってあります。その“別れてくれない恋人”――Yと付き合う前は、友人や、その折々の恋人と行ったり、ひとり旅だって、よくしていました。
Yと付き合い始めてから、もちろん旅行にも誘ったのですが、Yの中では旅行の優先順位が低く……海外旅行に費やす金なんてないということで、かろうじて国内旅行は何度かしたことがあったものの、海外に一緒に行く機会は一度もありませんでした。
もちろん、わたしはそれについて不満を持っていました。けれどもいつしか、自分には叶わないものと諦めてもいたのです。

 Yと別れようと決めたすぐ後に降って湧いた、好きな男性との海外旅行の計画。もしも、彼とわたしが旅行に行くことを知った場合、Yがどうなるかは、薄々わかってはいたものの、わたしの中には“恋”というモンスターが巣食ってもいました。だから、迷わずに選んだのは「行く」という選択肢です。

 そして、チケットを取り、ガイドブックを買い、トランクに荷物を詰めた出発前夜のこと。わたしのパソコンに、一通のメールが届きました。差出人はY。Yがパソコンのアドレスにメールを送ってくるなんて、初めてのことです。その時点で嫌な予感しかなかったのですが、しかし、わたしは勇気を出してメールを開きました。そしてそこに書かれた文面を見て、すぐに後悔しました。

「悲しみ」より「怒り」に支配された人

 書かれていたことを、ものすごくシンプルに簡略化すると「海を越えて、この呪い、お前らに届け!」。それを、なんといえばいいんでしょうか……壊れておかしくなりかけている人独特のおかしな言葉遣いや言い回しで書かれている文章でした。それまで、「おかしくさせてしまったのは、わたしのせいかもしれない」という罪悪感がないわけでもなかったのですが、けれども、その文面を見た途端に、いい加減うんざりだという気持ちが強くわきました。

 そう、わたしが壊したのではなく、もともと彼はそういう人だった。付き合い始めの頃は、わたしが朝まで飲んでいたりとか、男友達とやたらと親しいとかの、自分の気に食わないことがあると、よくこういうふうにおかしなことを言って暴れていたのです。だから、わたしはYと付き合っている最中、その「おかしな部分」が出ないようにと自分を押し殺して、気を遣っていた。わたしが気を遣うのをやめた瞬間に、Yの本性が出ただけなのです。

 突然の別れを目の前にして、悲しむのは当然の感情です。けれど心を支配しているのが「悲しみ」ではなく「怒り」のこともある。そのことに無自覚だと、可哀想な自分を哀れみながらも、怒りに任せて相手を責めることになる。そこには、愛しているはずの相手の気持ちはひとつも慮られてはいません。ただひたすらに、満たしていたものを奪い取られた自分、自分を置いて去っていってしまうことに怒り、泣いているのです。

 そのことに気が付いたわたしは、そのメールを読み返すことなく、さっさとゴミ箱フォルダに捨てると、「うわー、めちゃくちゃ怖いメール来たよ」と彼に笑って記憶からさっさと消去し、翌日には、空港でYが待ち伏せしてはいないか警戒しながらも、台湾に向けて出発しました。
台湾はわたしにとって、そういう甘くて苦い、思い出のある国です。そして、いま、夫となった彼と「あの時は大変だったね」と笑って一緒に生きています。

Text/大泉りか

次回は<なぜバンドマンと付き合ってはいけないのか…私怨で言います、クソが多いからです>です。
女が付き合うと痛い目に遭う職業3Bといえば、美容師、バンドマン、バーテンダー。一体なぜ付き合ってはいけないのかについて、「バンドマンはとにかくクソが多い」と吐き捨てる大泉りかさん!女癖以外にも金銭面でさんざん苦労させられる……と語る大泉さんは、昔の彼と何があったのでしょうか?

関連キーワード

ライタープロフィール

大泉りか
キャバ嬢、SMショーのM女、ボディペインティングのモデルなどの経歴を経て、現在は官能小説家、ライトノベル作家。
今月の特集

AMのこぼれ話