「下半身の衝動」は人生を変える力を持つ

 しかし、図書館に置いてある本の中でエロいものを探すのは、なかなか困難でした。
今と違ってその当時はインターネットもなく、そして身近にエロい文学に精通した友人もいなかったからです。
そんな中、ようやくのこと見つけたのが村上龍の本
最初は「家にもある村上春樹を読んでみよう」と思い立って、ふとその隣にある龍の本の背表紙に目が留まり、試しに手に取ったのがキッカケでした。
読んでみたら春樹よりもずっとしっくりとしきて、読み進めるうちにたどり着いたのが『トパーズ』です。
いままで図書館で借りて読んだどの本よりも直接的にエロく、その後、古本屋で探して買い求めて手元に置く用になりました。
もちろん、 オナニー用です
こうして村上SMの洗礼を受けたわたしは、ずっとSM的な世界に憧れていました。
どうにかしてその世界を覗き見たいとも思っていました。

 それから数年がたち、例の束縛の強い恋人と別れたばかりの頃、ちょうど両親が、わたしにパソコンを買い与えてくれました。
大学の生協でセット販売していた二十数万の代物ですが、パソコンの値段としては、当時はそう高くはなかったと記憶しています。
突如、パソコンを買い与えられたのはいいものの、何をすればいいのかさっぱりわからず、しばらくは宝の持ち腐れ、部屋のインテリアと化していましたが、ある時、ふと思いついて、村上龍で検索ですると、ファンの人たちが集まっているファンサイトを発見しました。
パソコンを通じて、人と知り合えるとは思っていなかったので、衝撃の発見でした。

 そこにはメーリングリストという、メールを通してチャットするようなシステムがあったので登録し、龍ファンの人々とやりとりしあうになりました。
一応は村上龍というフィルターを通しているだけあり、皆、文学の好きな人たちばかりでしたが、龍自体が広いテーマで作品を書いているので、政治的な話題が好きな人、キューバミュージックが好きな人、テニスが好きな人、野球が好きな人、サッカーが好きな人、ワインが好きな人と様々で、その中にはもちろん、SMが好きな人たちもいました。
時折、オフ会などもあり、わたしも何回か参加したりもしていたのですが、その中で知り合った同じ年の大学生の男のコに、ある時、「渋谷のクラブイベントでSMショーが観れるらしいんだけど、行ってみない?」と誘われたのです。

 もちろん、迷うことはありませんでした。
二つ返事でオーケーし、当日、ふたりで道玄坂の上のほうにあるクラブへと向かいました。
そして、初めてそこで、SMショーを目撃したのです。

 男性の縄師の方が女性を縛って様々な責めを行うショーでした。
イベント自体はハードコアテクノのイベントだったのですが、そのせいか、お客さんは、みなオシャレで、出演者の人たちも、フェティッシュなボンデージを身に着けていて、羽根モチーフのタトゥーを入れるような二十歳の小娘が、「カッコイイかも……」とぽーっと惚けるようなスタイリッシュな雰囲気に満ち溢れていました。

 ショーが終わり、興奮冷めやらぬままにダンスフロアにいると、先ほどショーをしていた縄師の男性の姿を見つけました。
すぐさま近づいて、「さっきのショー、すごい良かったです!初めて見ました!感動しました!」というようなことをアホっぽく告げると、縄師の男性は「今度はもっと小さいバーでするのがあるんだけど、良かったら、遊びにこない?」とフライヤーを手渡してくれたのです。

 ひとりでバーに行くなんて、初めての経験だったので尻込みする気持ちはありましたが、けれども、それ以上に好奇心が勝りました。
良くも悪くも、恋は人に人生を変える力を与えますが、下半身の衝動もそれに匹敵するパワーを持っている。

 こうしてわたしは下半身に突き動かされるまま、翌週、そのバーへと単身脚を運んだのでした。

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Text/大泉りか

次回は《セックスこそが終わった恋をきちんと成仏させるための手段》です。