エロは何が刺さるか分からない。敬語セックスが好きな女性もいる/中川淳一郎

エロをしていると一体どこが彼女の琴線に触れるか分からない。僕は特定の恋人がいないことが圧倒的に多く、基本的に間男をしてきたのだが、あちらさんに本命がいるという引け目もあり、食事やデートの時は敬語で喋り「〇〇さん」と苗字に敬称をつけていた。

そんなうちの一人、綿谷さんは、僕の4歳年下で、学生時代から付き合っている恋人がいた。24歳だったのだが、両家の親ともカップルで会っており、25歳になれば結婚することが既定路線になっていたと彼女は語っていた。

出会いはお祭り好きな男が開催する花見だった。代々木公園にブルーシートを敷き、よく分からない人々が次々と訪れるような会だった。綿谷さんは社会人3年目で僕は6年目だった。4歳年下なのに社会人歴が3年しか違わないのはまぁ、察してください。

彼女とは1ヶ月に1回、彼女の勤務先である新宿で飲む関係だったが、基本的には少し年上の僕に社会人として、ビジネスパーソンとしての助言を求めるような飲み会をしていた。あとは会社とは関係のない男に色々と愚痴りたかったのだと思う。それに加え、迫ってくる結婚のタイムリミットを前に、最後に羽をのばしたい感覚も毎度伝わってきた。

彼女はいつも「明日、空いてますか?」といった感じでメールを書いてきたのだが、僕は暇だったので毎度「大丈夫ですよ」と返事をして新宿に19時に行った。大体22時に終わり、新宿駅で別れたのだが、この日はちょっと雰囲気が違った。

「ニノミヤさん、来週末、彼の実家に行かなくてはいけません。完全に結婚を決めるタイミングだと思います。だから恐らく今日が最後にお会いできる日です。なんだか毎度連れ回した感じだったのに付き合ってくれてありがとうございました」

「いえいえ、毎回楽しかったですよ」

この瞬間、普段は受け身の僕だが、綿谷さんを今日はセックスに誘う方がいいのでは、という気持ちになった。恐らく今後会うことはないだろうし、「来週末」というタイミングで人生の重大事があるのに僕を誘ってくれたということは、エロをする気があるのでは、と勝手ながら思ったのだ。

今日は彼女をホテルに誘う!

この時は、新宿でおいしいモツ煮込みや柔らかく煮込んだ牛タンを出す店にいたのだが、もう少ししたら彼女をホテルに誘う! という自分にしては珍しいほどの決意をした。そして、彼女には「もう今後、会うのは難しいですよね?」と聞いた。そうしたら無言で首を縦に振った。そして彼女はこう言った。

「あ~、なんで私、ニノミヤさんと先に会ってなかったのよ~。でも、道は決まったからそれが一番いいってことと考えることにします」

「分かりました。でも、これから歌舞伎町のホテル行きませんか?」

コレを言うのには本当に勇気が必要だったがやぶれかぶれで言ったら彼女は無言で再び首を縦に振った。そこで僕はすぐに会計をし、新宿コマ劇場脇の道を通り、歌舞伎町のラブホテル街に手を繋いで歩いた。

こういった時の男女の駆け引きというものは面白くて、大抵お互いの思っていることは合致しているのである。彼女は「今日が最後」と言った。僕は「最後ならばエロいことをしよう」と言うであろうことを彼女は分かっていた。僕も「恐らくOKしてくれるだろう」と思った。

エロというものは、互いの探り合いなワケであるが、それまでの関係性で合否は分かるものである。我々はなんとなくそこらへんの感覚は似ていたといえよう。この時、ホテルを選ぶ余裕などなく、「空室」とネオンサインが出ているホテルに躊躇することなく入った。

そして、僕らはハァハァ、気持ちイイ! やってほしいこと言ってくださいね、などと通常のセックスをしたのだが、一回目の射精の後、二人してまどろんでいたところで彼女が言った。