彼女がセックスで喜んだこと

「すごく良かったです。でも、何が良かったかって、ニノミヤさん、こんなシチュエーションでも、敬語で喋るし、私のことを『綿谷さん』って呼んだじゃないですか。私ね、これまでセックスした人って、それ以前までは丁寧だったのに、ベッドの中では突然荒々しくなるという経験をし続けてきたんです」

「どういうことですか?」

「そこです。セックスに持ち込んだ時点で、『オレはこの女を征服した』とばかりに、乱暴な言葉で『しゃぶれよ』とか『ほら、欲しいか?』とか豹変するんです。でも、ニノミヤさんはずっと私に対して敬語で接する。これがすごく良かったです」

まさかの「敬語で喋ることが良いセックスの一因」という発言である。綿谷さんのこの発言以降、僕は徹底的にベッドの上でも敬語と「さん付け」を心がけるようになったのだった。そして、綿谷さんの夫とは翌年の花見で会うことになる。皆が新婚夫婦を祝福したが、当然僕も力強く拍手をした。

Text/中川淳一郎