「よりどりみどりで最高!」とは限らない

 で、読者としては「どっちがいいかなあ、どっちもいいなあ」とウダウダ悩み続けることが楽しかったりもするのですが(わたしはどっちも好き過ぎて選べないです)、すずめはヒロインですからそうもいきません。 いわゆるシンデレラ・ストーリーでは、王子様に選んでもらい愛してもらえればOKですが、すずめにはすでに愛してくれる王子様がふたりいるのですから、今度は彼女が選んで愛する番です。

 でも、片方を選べば、もう片方を傷つけることになるのですから、そこには鈍い痛みを伴う幸せしか待っていない。それに、相手は察しのいい王子様たちですから、どっちにもいい顔しようなんてムリ。そう考えると、決して「よりどりみどりで最高!」ではないのだよなあと思わされます。

 すずめがどのような決断をしたかはネタバレになるので伏せますが、すずめの決断を受け入れるときの王子様ふたりが、彼女の言葉だけを聞き、彼女のことだけを見つめているのは、非常に印象的です。
「すずめのこと泣かせたら、殴りにいくからな」「そんなことは絶対ない、必ず幸せにする」的な男同士のやりとりが一切描かれないまま、それぞれの新しい人生へと踏み出してゆく王子様。男臭いやりとりも悪くないですが、こういうあっけない去り際の方が、ヒロイン的にはありがたいかも。

 ちなみにわたしは、すずめの地元の友だち「保男」も大好きです。すずめへの淡い想いを胸にいろいろがんばっているけれど、それが「家にカレーを食べに来ないかと誘う」とかで、あまりにもボンクラすぎる保男。お前、イイ男じゃないかも知れないけど確実にイイ奴だよ。
イケメンじゃないとか、服がダサいとか、そんなことはもはやどうでもいい。保男のような純朴な田舎の少年(メガネ、坊主、ずんぐりむっくり)にまっすぐ愛されながらのんびり暮らしたい。恋愛のドキドキは、マンガで補給するので問題ありません(笑)!

Text/トミヤマユキコ

次回は <お姫様扱いなんかしてくれない! 『東京タラレバ娘』の難アリ王子たち>です。
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