どちらを選んでも鈍い痛みが…本命と当て馬が“察しのいい男”すぎる『ひるなかの流星』

 少女マンガに登場するステキな王子様に胸をときめかせていたあの頃——いつか自分も恋をしたい。そんな風に思いながら、イイ男とは何か、どんなモテテクが効果的なのか、少女マンガを使ってお勉強していたという人も少なくないハズ。

 時は流れ大人になっても、少女マンガによって植え付けられた恋愛観や理想の王子様像は、そう簡単に劣化するものではありません。むしろ王子様の亡霊に取り憑かれて、リアルな恋愛がしょぼく思える人もいたり? この連載では、新旧さまざまなマンガを読みながら、少女マンガにおける王子様像について考えていきます。

第8回:察しのいい王子様『ひるなかの流星』

トミヤマユキコ 推せる!マンガの王子さま ひるなかの流星 やまもり 三香
©「ひるなかの流星」/やまもり三香(著)/ 集英社

 少女マンガ読者にとって「本命と当て馬、どっちが好きか?」というのは、永遠のテーマではないでしょうか。

 衝突したりすれ違ったりもするけどやっぱり大好きな本命か、本命の存在を知りながらも包み込むような愛で徐々に距離を詰めてくる当て馬か……あなたならどちらを選びますか!

 ちなみに大学の授業で『はいからさんが通る』を読ませると、本命の伊集院忍ではなく、当て馬の青江冬星に人気が集中します。「ちょっとツンデレだけど、ヒロイン・紅緒の気持ちを尊重してくれるイケメンの冬星さんがフラれちゃうなんて可哀想すぎ!」というのが冬星派の意見。

 それに対して、やや劣勢の忍派からは「紅緒を振り回してばかりだけれど、彼女を愛する気持ちに嘘はないし、なんといってもヒロインが心底惚れている相手なんだから、くっついてくれて良かった!」という意見が出てきます。
『はいからさん』では紅緒と忍がくっつきますが、ぶっちゃけどちらを選んでも幸せにはなれる。だからこそ、読者はどっちがいいか悩んでしまいますよね。

 今回取り上げる『ひるなかの流星』もまた、本命と当て馬が出てくるラブストーリーです。コンビニもカフェも信号もない田舎町に暮らす15歳の「与謝野すずめ」が、親の海外転勤をきっかけに単身上京、叔父の「諭吉」と生活しながら花の高校生活を送ります。
彼女の本命は、諭吉がやっているカフェの常連客にして担任の先生でもある「獅子尾」、そして当て馬は、隣の席のぶっきらぼう系男子「馬村」です。

 トラブルに見舞われるたび、必ず助けに来てくれる獅子尾に運命的なものを感じながらも、元カノの登場にザワついたり、学校のみんなにバレないよう気を遣ったりと、すずめの恋は難所だらけの山道のよう。獅子尾の方も、はじめて教え子を好きになってしまった自分をコントロールできず空回り気味で、諭吉にバレて怒られたりもしています。好き同士なのにうまくいかないって大変だー!

 一方、極度の女嫌いでちょっと触れられるだけでも顔が真っ赤! みたいな馬村は、すずめのまっすぐな性格に影響されて、少しずつ他者に対して心を開くようになっていきます。

 そして、自分の殻に閉じこもりがちな自分を変えてくれたすずめを好きになり、フラれてもなお彼女のそばにい続けます。ラスト近く、獅子尾に「もうゆずらねぇ」と言われて「こっちのセリフだ」と応戦する馬村の真剣な眼差しは、本当に美しい……。

 このふたりの王子様には「察しがいい」という共通点があります。すずめが困っているとすぐに現れるし、ちょっと話しただけで彼女が悩み事を抱えていることを見抜いてしまう。この「言わなくてもわかってくれる能力」が、ふたりともすごく高い。姉や妹がいる家族構成でもないのに、なんでこんなに察しがいいのか。そんなスマートな王子様がふたりもいるなんて、この高校、一体どんな理想郷だよ!