お姫様扱いなんかしてくれない! 『東京タラレバ娘』の難アリ王子たち

 少女マンガに登場するステキな王子様に胸をときめかせていたあの頃——いつか自分も恋をしたい。そんな風に思いながら、イイ男とは何か、どんなモテテクが効果的なのか、少女マンガを使ってお勉強していたという人も少なくないハズ。

 時は流れ大人になっても、少女マンガによって植え付けられた恋愛観や理想の王子様像は、そう簡単に劣化するものではありません。むしろ王子様の亡霊に取り憑かれて、リアルな恋愛がしょぼく思える人もいたり? この連載では、新旧さまざまなマンガを読みながら、少女マンガにおける王子様像について考えていきます。

第9回:難アリ王子のカタログ作品「東京タラレバ娘」

『東京タラレバ娘』が吉高由里子主演でドラマになります! 放送日はもう目の前! というわけで今回は、東村アキコ先生の原作を読み、同作に登場する王子様たちについて考えてみたいと思います。
この作品、少女マンガにありがちなシンデレラ・ストーリーに批判的なのが最大の特徴で、ヒロインがお姫様扱いされないこと山の如し。当然、王子様たちもステレオタイプではない。というか、難アリ王子のカタログみたいな作品なんです(褒めてます)

 まず紹介したいのが、韓流アイドルを思わせるイケメンのKEYくん。もっといい男と出会ってい「タラ」……あの時あいつと結婚してい「レバ」……といった具合に、恋愛・結婚に関する〝仮定の話〟が多すぎる倫子・香・小雪の3人娘を「タラレバ女」と名付けたのが彼です。

 KEYくんは、大衆酒場でひとり飲みをするのが大好きで、小雪の父が営む酒処「呑んべえ」の常連客なのですが、しょっちゅう集まってはタラレバ言いまくる倫子たちにやたらと絡みます。「オレに言わせりゃあんたらのソレは女子会じゃなくてただの…/行き遅れ女の井戸端会議/だろ/まあいいよ/そうやって一生 女同士で/タラレバつまみに酒 飲んでろよ!/このタラレバ女!!」……女同士でギャーギャー騒いでるのがうるさいからキレてるというより、彼女たちの生き方・考え方に怒っているのがわかります。

 しかし、よく考えてみれば、赤の他人であるアラサー3人組にわざわざ説教をするなんて、なんだか変です。彼女たちの根性を叩き直したところで、KEYくんになんのメリットがあるのか、いまの時点ではよくわからない……ただ、KEYくんの過去に何か忘れがたい大きな出来事があって、そのことが彼を説教男子にしているのは間違いなさそう。

「酔って転んで男に抱えて貰うのは25歳までだろ/30代は自分で立ち上がれ」といったセリフを見ると、女子たちの心をエグる「性悪イケメン」と言われても仕方ないのですが、頼まれてもないのにメンター(指導者、助言者)を買って出ることで、3人娘たちを救おうとしているのなら、ある意味優しいと言えなくはないですし、そもそも彼女たちの思考や行動がここまでわかってしまうKEYくん自身に(男だけど)タラレバ娘の要素がありそう。この説教上手な王子様については、今後も注意深く観察していきたいところです。

 そして、「丸井」というサラリーマンは、善人っぽい顔して実に罪深い王子様です。なぜって、小雪といい感じになり、お互いの気持ちがMAX高まったところで、「僕 結婚してますけどいいですか?/でも 嫁とは別居中です/嘘つく気も隠す気もありません/でも小雪さんが嫌なら諦めます」と告白するのですから。この告白を小雪は「正直に言うだけこの人は誠実」「選択権を私に委ねてくれた優しい人」だと思うことで、あっさり受け入れてしまいます。小雪、目を覚ませ!

 ほんと、既婚者の開き直りほど恐ろしいものはないですよね。フラれて当然と思っているから、躊躇なく仕掛けてくるし、結婚という障害を乗り越えてまで恋愛しようとすることが、「男気があってカッコいいのでは?」みたいに思えてきたりもするし。丸井と小雪を見た倫子が「不倫とはいえあそこには愛がある…」と語るシーンがあるのですが、不倫が純愛に見えてしまうマジックには本当に気をつけてください!!