『俺物語』がもたらす、恋愛観の地殻変動

 誰よりも男らしい見た目でありながら、恋する気持ちに関しては、女子より女子っぽいピュアさを持っていることを素直に認める、猛男のような王子様を見ていると、恋する気持ちに共感しつつも、圧倒的な男の肉体に萌えたりもして、なんというお得感なんだ! と思わずにはいられません。

 ちなみに、イケメンで、勉強ができて、察しがいい砂川の方が、よっぽど少女マンガの王子様っぽいのに、彼は最後まで猛男のサポート役であり続けるというのも、『俺物語!!』のおもしろい所です。

 さまざまなアピソードを通じて、彼がいかにデキた人間であるかが語られるのですが、誰ともカップルになることなく(ちょっとした恋愛エピソードは出てくるのですが)、ただひたすら猛男の親友として存在しつづける。これが恋愛をテーマとする少女マンガであることを考えれば、イケメンの無駄遣いと言ってもいいくらいですし、よく考えたら、かつては砂川みたいなイケメンが主役で、その脇に猛男みたいなニブチン男子が配置されてたんじゃなかったっけ? と考えると、この作品が、王子様像だけでなく、脇役像もアップデートしているということに気づかされます。

 ただの娯楽かと思いきや、案外読者の恋愛観に影響を与えているのが少女マンガ。だとすれば、猛男のような男をカッコよく描くことで、恋愛観の地殻変動が起こるかもしれません。
「ただしイケメンに限る」という時代が終わって、イケメンにも色んなタイプがいる(猛男にも砂川にも惚れられる要素はあるし、べつに優劣などない)と考える少女たちがいずれ大人になったとき、世界はいまよりずっと平和になるかも…ちょっと大袈裟でしょうか? 

 でも、イケメンの多様性を追求し、新しい王子様像を提出した本作が後世に与える影響については、長期的に観察したい、する価値がある。そう思います。

Text/トミヤマユキコ

次回は…
<どちらを選んでも鈍い痛みが…本命と当て馬が“察しのいい男”すぎる『ひるなかの流星』>です。

永野芽郁・三浦翔平・白浜亜嵐(EXILE/GENERATIONS from EXILE TRIBE)出演で来春ロードショー決定で話題沸騰必至!女子なら誰もがしてしまう「妄想」をこれでもかと散りばめた作品『ひるなかの流星』の原作をトミヤマユキコさんが紐解きます。