不調を抱える人に
向き合っていく方法は

そして、そういった人たちとどう向き合っていくか、というところなんですが……これがほんっとうに難しいんですよね。
認識を持っていれば寄り添うことはできますし、隣で「大丈夫だよ」と背中をさすってあげることもできます。
それによって、徐々に元気を取り戻して、わたしたちが知っている“自分を大事にする”方法を知っていく可能性もありますが、ものすごーく時間がかかるうえにとてつもない根気も要します。

個人的な話をして恐縮ですが、わたしの夫にもメンタルが落ち込んでいた時期がありました。
知り合った当時、夫は仕事が原因でメンタルが落ち込んでいたらしいのですが、わたしはあまりよくわかっておらず、「なんか暗くてネガティブな人だな~」というイメージを抱いていた程度でした。
そのため「まあ、もともとそういう性格なんだろうな」としか思っておらず、夫がネガティブモードに陥ったら「外に太陽浴びろ! 家にこもってるから落ち込むんだ!」と散歩に連れ出したり、「そんなん今考えたって仕方ないでしょ! 時間の無駄!」と一蹴したり、「わたしと一緒にいるあなたが幸せじゃないわけないでしょう」としつこく言い続けたり、たらふくごはんを食べさせて、がっつり睡眠を取らせて……と過ごしていました。

夫はもうずっと前に寛解しましたし、わたしたちがイメージする“自分を大事にする”生活を送っています。
本来の健康な自分を取り戻せてよかったな、接し方は間違っていなかったんだな、という実感がある反面、同じように接したからといって上手くいくかというと決してそんなことはないと思ってもいます。
夫のメンタルが落ち込んで心身に不調が出ていた原因は仕事と環境だったため、ストレス源から離れて環境を変えたこと、それによって意識の持ち方にも変化があったこと、また夫本人の気質や物事の受け止め方など、様々なラッキーが重なってたまたま上手くいったのだろうな、と。

あなたが同じような行動をして彼が元気になり、今後は休職をすることもないかと言うと、決してそうとは言い切れません。受け止めるほうによっては、わたしの夫に対する接し方は「楽観的で腹が立つ」「寄り添ってくれなくてひどい」と感じるかもしれませんしね。

性格上の悩み……彼の場合で言うと、人に頼れない、相談できない、はっきりと自分の意志を伝えられない、人と深く関わることが苦手など、これらは本人が持っているもともとの気質、またそれが培われてきた家庭環境、生育歴、過去に負ったトラウマ、人間関係など、根っこにある部分が少なからず影響を及ぼしていているのだと思います。
パートナーとしては、相手が抱えている悩みをわかち合いたいと思うでしょうし、できる限り心身ともに健康的に過ごしてほしいと願うはず。だからこそ「この人はどうして自分を大事にできないんだろうな」「こういう風にしたらいいのにな」と想像し、話を聞いて、寄り添って、自分なりに提案したくなるときもあるでしょう。それは否定されるものではありませんし、決して間違った行為だとも思いません。

ですが、相手からしたら、わかり合おうと寄り添ってくれればくれるほどに、根っこの部分で自分との価値観の違いや見当違いな理解の姿勢が露呈して、「結局わかってもらえないんだな」とがっかりしたり、「わからないのならもう放っといてほしい」と疲れてしまう可能性もある。そうならないようにと、こちら側が「彼はそういう人なんだな」と受け止めて、相手がしんどくならないよう一定の距離を保つようにしていても、つらそうな様子を間近で見るたびに「なんでそんなに苦しいのに変わろうとしないの」と憤りを感じることもあるでしょう。

どうすることが最善か、という明確な答えは出せませんが、少なくとも相手がこちらからの歩み寄りを頑なに拒絶せず、徐々に自分を大事にする方向に進んでいきたいという意志がある、もしくはあなたが「彼はそういう人なんだな」と不安や憤りなく受け止める関係を厭わず接し続けられる。このどちらかができなければ、一緒にいるのはお互いにしんどいままなのではないかと思います、とてもかなしいことではありますが……。
ただ、あなたも彼もどちらかが悪いというわけではないということは、知っておいてほしいと思います。

周囲の人たちの話によると、一度メンタルが病んでしまえばたとえ寛解しても常にトリガーに指が引っ掛かった状態だと言います。
結婚を考えている相手が過労でメンタルが病み休職、それも二度となると不安になってしまう気持ちはわかります。
メンタルが病んだ彼にあなたがどういった寄り添い方(受診勧奨など)をしたのか、彼は休職中にどういう過ごし方(カウンセリングや服薬など)をしていたのか、彼の体調不良はどの程度のものだったのか、彼はあなたの助言にどれほど耳を傾けているのかについては書かれていないため、あなたの不安や憤りがどれほどのものかはわかり兼ねますが、それでも「彼の自業自得だと思ってる」は絶対に言ってはいけないことです。

職場によっては万全の体調ではないにもかかわらず復職を余儀なくされたり、医師とのコミュニケーションが不十分だったために適切な診断をされていなかったりなど、彼自身だけの問題とは言い切れません。また、メンタルがしんどい状況であればあるほど、冷静な自己判断ができず、「人に迷惑をかけているかもしれない」というプレッシャーから無理をしてしまう可能性が高いため、周囲のサポートや助言が重要になってきます。
もしかしたら、彼はあなたの助言に一切耳を傾けず、サポートを拒絶し、病院にもきちんと行かず、服薬を自己判断で中止して、会社が休みなさいと言っているにもかかわらず、無理に働いているのかもしれません。ですが、彼と根っこの部分でわかり合いたい、しっかりと向き合いたい、でもやり方がわからないから無理だと結論づけてしまう前に、一人の大人として、近しい人が不調になったときの対応を自分はできていたのか、というのは一度振り返ってみてもいいかもしれませんね。