どこに住むかより、どう生きるかが大事

ローマの初日の夜に、恐る恐る店を訪ねてみたらすっかり綺麗に改装され、あの奥様はおらず、息子さんがお店を継いだようでした。
奥様はたぶん高齢で退職されたのでしょう。
店内にいらっしゃらなくてちょと残念でしたが、ひさびさのカルボナーラは美味しい味のまま。
イタリア人の店員さんも、日本人の店員さんも、パリのそれとは比べ物にならないほどチャキチャキと働いている姿がみられました。

海外暮らし、いやパリ暮らしに慣れている私には、料理&接客ともにパリの評判の店よりも十分満足いくものだったのです。
なんで日本人のお客さんたちはあんなにネガティブな書き込みをしたのだろう?

思い当たる点が一つだけあります。それは、おそらく観光でこの店に来た日本人のお客さんは、日本の「世界最高水準のサービス」に慣れすぎてそれが提供されて当前だと思っている、ということです。

ここではっきり言っておきます。
日本のサービスは世界的に見ても異常な程に完璧であり過剰でもあり、日本の外を一歩出たらそれが当たり前ではないということです。
パリではレストランの席に座っても、いつまでたってもメニューが来ない。
店員の態度が丁寧でないどころか、悪意があることだって珍しいことではありません。
お会計をしたいと思っても、チェックを持って来てくれるのに10分、お金を取りに来てくれるのにまた10分と待つことだってパリではよくあることです。

先のローマのレストランに来た日本人のお客さんは、このレストランには日本語メニューがあったり、日本人店員がいるということを知って来ている人が多いようで、そのせいで「ローマでも日本と同等のサービスが受けられて当然」と思って来店したのかもしれません。
そんなこと、海外ではよっぽどの高級日本レストランでもない限り不可能です。
それは、海外であること、スタッフ全員が日本人ではない、ここは日本ではない、ということが理由です。

ローマ思い出の店で、私も日本人のスタッフの方にため口で声をかけられましたが、それはイタリアのローマでイタリアンを食べに来ている雰囲気に十分あっていて、親しみを感じられるものでした。

さて、一方で海外生活が長い日本人の中でも、すっかり外国人のいい加減さが染み渡って、いい加減な仕事をする人もいます。
これまたイタリアに本店がある日本人に大人気の革製品の店があるのですが、そこで母親と財布を買ったときに母が「お手入れはどんな風にすればいいですか?」と相談したところ、(日本人の店員さんに)「はぁ?」という受け答えをされました。
これには、さすがに私も母も仰天。
最初からなんだか嫌な雰囲気はしていたのです。
結構高級なお店にも関わらず、店に入ってからというもの、二人いた日本人の店員さんは大きな声でべらべらとおしゃべりばかりで接客は一切せず、イタリア人のもう1人の店員にまかせっきり。
トドメに「はぁ?」という返答。
イタリア人だってビックリの最低の接客です。

特にここの店の日本人店員の接客は最低だということは、パリにも噂が広まっているほど有名な話です。
なんでしょうねぇ。私が日本人だからこそ、こういう日本人観光客のずれた感覚や、すっかり海外に馴染んで悪いところばかり適応してしまった姿が目についてしまうのかもしれませんね。

そういう私だって、日本に帰る度に「パリジャンになっちゃったね」と言われる言動をしてしまいます。
気をつけないと…(汗)。

Text/中村綾花