「エロで男の気を引くなんてズルい」私が官能小説家だと明かさないとき

カウンターの飲み屋などで居合わせた人に、話の流れで職業を尋ねられることが時たまあります。そういうときに「官能小説家です」と正直に伝えることもあれば、「ライターです」とやや仕事の内容をボカすこともあるし、さらには「ふつうに働いています」と職業自体を曖昧にする場合もある。なぜ3つのパターンを使い分けるのかというと、それには理由があります。

まず第一に、「官能小説家です」と自己紹介するときは、居合わせた人々と親しくなりたいと思っている場合です。官能小説家という職業は、そこそこには珍しい職業である上に、性の香りがプンプンにおう。いい意味でも悪い意味でも人……特に男性のゲスい好奇心をくすぐる職業なので、それを踏まえてあえて名乗ると、大概は「どういうものを書いてるの? 本とかって出してるの?」とそこから話題が展開する。そうなればしめたもの、官能小説にまつわる小ネタなどを披露すればその場は制したも同じ。

でも、これにはデメリットもあります。酒の場だろうと下品な話、性の話をしたくないという人もいるし、逆にエロい女だと見下して突如セクハラジジイになり下がる人もいる。一番ややこしいのは、その場に「他の女性が、自分よりも注目を浴びることが、許せない」とか「エロで男の気を惹くなんてズルい(けしからん)」という女性がいた場合で、「あー、いるよね。わたしの知り合いにもいる」などと突然かぶせてきたりする。嘘つけッ! その知り合いの名前を言ってみろ!!!

というように、“官能小説家”と名乗ることは、ある意味で劇薬というか、諸刃の剣ともなる。なので、やや配慮が必要そうな場のときは「ライターです」とややボカして伝えることにしています。“ライター”であれば、ひとまずエロとは切り離されるので、下ネタ好きの女だと白い目で見られることもなければ、セクハラのターゲットにされることもないし、注目を浴びていたい系女子の癇に触れることもない。エロは小出しにして、ゆっくりと場に馴染んで行こうと思うときは、この手を使う。