「お互いの意見を聞き合おう」という恋人の提案

以前付き合っていた男性は、黙り込んでしまうタイプでしたが、それが積もりに積もったのか、あるとき、口喧嘩になった際、「今日はお互いに、これまで心の中で思ってきた言いたいことを言い合おう。すぐに反論するのはやめて、お互いの意見を聞き合おう」という提案を受けたことがありました。相手が何か言いたいことがあるのならば、それはしっかりと聞き、自分にも悪いところがあったというのならば改め、これからのふたりのより良き関係にフィードバックしたいのは当然のこと。快く対話の申し出を受け入れ、まずは彼から、わたしへの不満を言ってもらうことにしました。

が、次の瞬間、耳を疑うこととなりました。

「バ~カ!」

彼の口から出た“わたしへの不満”は、まさかの「バ~カ!」だったのです。えっ、わざわざ向き合ってまで、わたしに言いたいことって「バ~カ!」なの!?

三歳の息子が相手ならば「バカって言った人がバカだよ~!」で返せばいいのだろうけど、相手は立派な大人の男性です。「バ~カ!」と言われてなんと返せと? いや、これから対話を始めるにあたり、まずが最初は、あえてバカバカしいことを言うのことで、雰囲気を朗らかにしようとした?
混乱しながらも次はわたしの番だから何か言わねばならぬ。しかし、「バ~カ!」と言われて返せば……想像もしていなかった展開に、「前から思っていたけど、本当に女々しいよね」とついつい本音を漏らしたところ、「男に向かってそれだけは言うな!」とキレられ、対話の試みは終了したのでした。

それにしても、彼は、何がしたかったのでしょうか。わたしに正面切って「バ~カ!」と言いたかっただけだということはないと思うのですが……。ちなみにわたしが彼の立場だったら「女々しいって何? 男は男らしくないといけないの? あなたは男には男らしくあれと望んでいるの? 女々しい男は何がダメなの?」と返します。

Text/大泉りか