「とびきりかわいい!」男性の一途な恋
もう一本はとびきりハッピーな映画がいいな。トムにも負けない一途な男性のお話です。
異性の視点で語られる恋愛映画ってとても興味深いですよね。男と女って違うんだなぁと思ったり、いや一緒だなぁと感じたり。それから普段は肉薄できないところにフィクションならではの架け橋を得て、ぐっと愛しさを感じることも。
私にとっての最も愛すべき人、オールタイム・キューテストは悩むことなく『アパートの鍵貸します』のミスター・バクスターです。
めっちゃキュートなヒロイン・フランがいてなお、もっとキュートな彼は何回見ても飽きません。
バクスターさんは保険会社のしがない社員。しかし多くの課長に厚く“信頼”されています。というのも、実は自分の部屋を彼らの逢引用に貸し出しているから。一体いつのころからか、もう習慣化してて断りきれないし、なんか出世させてくれるって言うし……と半ば諦めながらホテルばりにブッキングの調整に追われ、酒とつまみをこまめに補充して、風邪を引いても自分の家に早く帰れない哀れなバクスターさん。隣人にも大家さんにも、酒豪の性豪だと勘違いされています。
妻子持ちでありながら愛人と遊び歩いている上司たちとは裏腹に、バクスターさんは奥手で一途。エレベーターガールのフランにほのかな想いを寄せながら、たまーに世間話ができるのを楽しみにしています。
そんなある日、バクスターさんは新たに“常連”になった部長が部屋に連れ込んでいるのが、想い人のフランだと知ってしまって……というのが本作のあらすじ。
うーん、60年前の映画なのに全く古さを感じない設定です。
とにかく素晴らしいのが印象的な小道具の使い方と会話劇が隅々まで素晴らしい脚本、そして主演の二人です。
ヒロインを演じるシャーリー・マクレーンは、静止画で見るとそんなに綺麗とも可憐とも感じないのですが、動いてるところを見るとほんっとうに可愛いのです。コケティッシュという言葉がとてもよく似合う。
そしてバクスターさん役のジャック・レモンはコミカル、シリアスと、とにかく全ての表情と仕草が愛さずにはいられない人間味にあふれています。
語り草になっている、テニスのラケットでスパゲティの湯切りをするシーンも楽しいです。
私はいつも自分でパスタを茹でたときに思い出してます。ラケットは使わないけど……(笑)
アカデミー賞10部門にノミネートして5部門を受賞、思えばこの映画が私にとって初めてのモノクロ映画で、名匠ビリー・ワイルダーに出会った作品でもありました。
半世紀以上経っても色褪せない(白黒ですが)名作です。
これからの季節、真夜中のひとり映画としても沁みるので、あたたかい飲み物をご用意してどうぞ。
TEXT/気絶ちゃん
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