パリに行く女、パリに行かない女

おひとりさまのみなさんは、年末年始をどのように過ごすかもう決めているのでしょうか。私は今年もおとなしく実家に帰りますが、お金に余裕さえあれば一人、海外で優雅に年越しをしてみたいなあなんて願望もあります。

パリの街並みの写真 PROMoyan Brenn

ところで、なぜか我々女性たちから過剰に象徴的な役割をあたえられ、今も昔も古典的な憧れの地となっている海外都市といえば――そう、おフランスのパリです。重厚な歴史をかんじさせるロンドンに、光輝く摩天楼のニューヨーク、そして軽妙洒脱なパリ。ハワイやバリ島などのリゾートを除けば、女性の人気はだいたいこの三大都市に集中するのではないでしょうか。本や映画やその他趣味などでついマニアックな方向に走りがちな私も、この三大都市はやっぱり大好き。どれも素敵な思い出がある場所です。

しかし、雑誌などでもくり返し特集が組まれるパリは、その三大都市のなかでも異彩を放っているように思います。私が日本版SATCだと思っている漫画『東京アリス』で、主人公の女友達・円城寺が挙式をするのもパリですしね。

「パリ」に行ったことはありますか?

『パリ行ったことないの』 (フィガロブックス)の書影 『パリ行ったことないの』 (フィガロブックス)/山内マリコ (著)

さて本題に入りますが、山内マリコさんの短編集で『パリ行ったことないの』という作品があります。この短編集の主人公である女性たちの大半は、パリに強い思い入れを持っているにも関わらず、一度もパリに行ったことがありません。1話目の主人公・35歳で独身のあゆこは、猫を飼っていることを言い訳に、パリはおろか海外旅行にも一度も行ったことがない。だけどふとしたきっかけから、「パリにすら行かずに、死んでもいいと思ったの?」と長い眠りから醒めたように決心し、フランス語の勉強とパリに行く準備をし始めます。

この短編集における「パリ」とは、実際のフランスの首都と必ずしも同じではなく、おそらくある隠喩的な意味を持っています。ずっと心のなかで引っかかっている場所、まだ足を踏み入れたことのない憧れの場所、今いるこの場所から異なる世界へ連れ出してくれる場所。小説の主人公である女性たちにとってはそれが「パリ」だったわけですが、私にとっても、あなたにとっても、きっとそんな場所があるはずです。それはどこかの海外の都市かもしれないし、地理的な場所ではなく何かの「状態」かもしれません(たとえばそう、結婚とか)。

読者のみなさんは、実際のフランスの首都パリはともかく、そんな隠喩的な意味での「パリ」に、行ったことがあるでしょうか。私はこの小説を読んだとき、まだ海外に行ったことがなくて、それがちょっとコンプレックスだった10代後半の頃を思い出しました。日本以外の世界を見てみたくて、初めての海外旅行へと1人で旅立ったのは20歳のとき。旅先の台湾で地下鉄に揺られながら、「1人で海外なんて絶対に無理だと思ってたのに、こんなに簡単に行けるんだ」と、何だか拍子抜けしてしまったことを覚えています。

パリもそうだったし、ロンドンもそうだったし、ニューヨークもそうでした。行く前は遥か遠くの幻想都市のように思っていたのに、行ってしまったらすぐだった。海外旅行はあくまでたとえ話ですが、そんなふうに憧れの場所を現実に訪れることをくり返していると、「本当に、実際に、行けるんだ!」という、手応えのようなものが掴めてきます。私にもまだまだ隠喩的な意味での「パリ」が心のなかにいくつかありますが、具体的な計画に落とし込んでしまえば、案外簡単にそこに行けるということを、肌で理解しているつもりです。逆にいうと、だからこそ自分に言い訳が効かないんですけどね。できない、行けない、無理だと思っているのは、実は自分だけだったりするものです。