「家族」ではなく「個人」がベースの社会になってほしい
本書を読んでいくうちに、「とはいえ小学生以下の子供ではなく成人した大人なのだから、逃げようと思えば逃げられたのでは?」なんて考えは、ことごとく打ち砕かれていく。実際、髙崎あかりは何度も家出を試みているし、浪人をやめて就職しようと面接して内定も得ているが、その度に探偵までつけられて母に邪魔されている。就職先の会社の人に迷惑をかけるわけにもいかず、結局家に戻って、勉強を続けざるを得ない。
髙崎あかりは「いずれ、私か母のどちらかが死ななければ終わらなかったと現在でも確信している」と陳述書に書いているが、たしかに本書を読むと、「もっと他に方法があったはず」なんて軽い言葉はかけられなくなる。
それでも「(別居していたものの細々とつながりがあった)父に助けを求めていたら」「高校のときの教師が助けてくれていたら」などとifは思いつくけれど、個人的には、現在の「親族の身元保証」が何かとベースになっている社会を変える時期が来ているように思う。
最近は連帯保証人がいなくても借りられる賃貸などがようやく出てきたけど、こういったものがもっと普及していくといい。そうしたら、どこかのタイミングで、髙崎あかりは実家を脱出できたかもしれない。密室になり得てしまう「家族」ではなく、あくまで「個人」をベースとする社会になっていってほしいと、個人的に願っている。
この事件は第一審で懲役15年が申し渡されたが、母親殺害に至った事情が斟酌され、第二審で懲役10年に減刑された。最終回でものすごく重い内容を扱うことになってしまったけど、本書が「家族」について深く考えさせてくれる本であることは間違いないので、子供がいる人にもいない人も、ぜひ読んでみてほしいと思う。
Text/チェコ好き(和田真里奈)
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