中学生になってからは…

中学に上がると世界はガラリと変わってしまった。
ほとんどの人が絵を描く姿を見せない。
クラスでは存在感が全くない奴らが美術部に集っていた。そこには熱心に絵をやる人間はもちろんいない。運動部に入るのがどうしても嫌だった怠け者たちだらけ。おまけに陰湿。もちろん私もその中の1人である。
中学では絵描きの人間がどういう扱いをされるかはほとんどクラスガチャで決まる。

1年生のときは絵に頼る必要がなかった。いじめがなかったし友達もいたからだ。
2年生のとき、絵は無力だった。ハブられまくったし友達もいなかった。しかも絵を描いてるやつは暗くてキモい奴という扱いだっただけに余計に絵を描くわけにはいかなかった。
3年生は違った。ここでは絵を描けると重宝してくれる人たちが中心にいたのだ。
しかも絵を描く人が私以外にあんまりいなかったため、合唱コンクールのポスターを描くことで貴重な人材ぶることができた。
この頃も私は漫画が大好きないわゆるオタクだったから絵はバリバリの漫画絵(ポスターのときは漫画絵は控えるのだが)。やはり絵が可愛いと女子が気に入ってくれる。おかげで卒業文集の表紙のイラストを描くという一翼を担うことになったのだった。あー、天国のようなクラスだった。

そして高校。この頃には世の中のオタクヘイトが高まっていたから私は絵を捨てた。
中学3年のときにはすでにヘイトが始まりかけていた。他は知らないけど、うちのとこではらきすたやけいおんが引き金となっていた。女子たちはみんな気持ち悪がって、給食の時間に誰かがらきすたの音楽を流すとクラス中に悲鳴と呻き声が響き渡ったものである。
アニメが好きで漫画が好きな人は、キモいオタクとして見られかねなかった。「キモオタ」という言葉が生まれたのもきっとこの頃なんじゃないのかと思う……同じ頃、私もギャルゲーや美少女フィギュアが好きな兄のことを気味悪がった。
こんなことを言うのは今の時代じゃ非難されかねないけど、当時としてはキモくて暗い奴の仲間入りするのはマジで勘弁だった。
私は普通の女子にならないといけない。薔薇色の女子高生生活を送って彼氏を作らないといけない。それがいわゆる青春というものだし、絵を描いてたらそれが叶わなくなる気がした。
ここから数年間、私は大好きだった漫画も捨てることになる。

あの頃と今で変わらないもの

こんな感じで、完全なる損得勘定でしか絵を描いていなかったから、中高と上がっていっても絵で将来どうにかなりたいなんてことはやっぱり考えたこともなかった。
漫画家のことは尊敬してたし、小学4年生の頃は漫画家になりたいって思ったこともあった。でも、母は私に熱心に言う。
「絵で食ってる人なんていないんだよ。漫画家だってお前には無理、やめときなさい」
言われたことを真に受けてしまう私は、ああそうなんだとすんなり聞き入れてしまった。だからそれ以降、美大という選択肢も考えなかった。私が高校の頃思い描いた将来というのは、薬学部に進み、その後は院に行き、ゆくゆくは化粧品メーカーに勤めて……なんてものだった。

ところがなんやかんや結局今は絵を描いているしそれで小銭を稼いでいる。その辺の話はまた次回にでもできたらと思うけど、人生は何が起きるかわからない……。
ただ、あの頃と変わらないのは絵が描けると相変わらずイイコトがあるということだ。 
お金を稼げるし、なんなら新しい出会いにも恵まれる。
こんなに絵で助けられているのだからもっと真剣にやらないと、今度は絵から自分が捨てられてしまう!そう思って最近はせっせと絵の練習に励んでいる。今更わかったけど絵ってかなり難しい、知らなかった。
そして現状、結局私はキモくて暗い奴である。これは逃れられない運命だった。
おわり。

Text/oyumi