母国か愛かどちらを選ぶ?移民問題に揺れる女の決断『ブルックリン』

たけうちんぐ ブルックリン 移民 アイルランド ニューヨーク 映画 2015 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.

 故郷を離れて、もう何年になるのか。若い頃は良かった。夢を抱いて上京し、未来を切り拓くために親も応援してくれていた。
でも、そんな親の老後は誰が見てくれる? 自分はここに居てもいいのか、その必要はあるのか。故郷から遠く離れて暮らすと、後ろめたさが付きまとう。
自分にとって本当の“家”はどこなのか。愛する人が増えて、一人で生きているわけじゃないからこそ葛藤を続ける。

 誰にとっても人生はたった一つの決断で動くもの。本作はそれが普遍的に描かれている。『BOY A』のジョン・クローリー監督が1950年代のヨーロッパ諸国の移民で溢れたブルックリンを舞台に、『つぐない』で13歳にしてアカデミー賞助演女優賞にノミネートされたシアーシャ・ローナンを主演にして、母国を離れて単身ニューヨークに降り立った一人の女性の葛藤を映し出す。

母国か愛すべき人か…人生の岐路に立ったとき

たけうちんぐ ブルックリン 移民 アイルランド ニューヨーク 映画 2015 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.

 一刻も早く母国に帰りたい。お母さんとお姉さんが恋しくてしょうがない。エイリシュは毎晩のように姉から届いた手紙を涙で濡らす。しかし翌朝には、ブルックリンのデパートで接客業に勤しむ。辛い。寂しい。毎日が地獄だ。

 トニーはそんな彼女にとってヒーローでしかない。故郷への未練を断ち切るかのごとく、両手を広げて新しい世界に迎えてくれる。ホームシックを克服し、恋人が出来たことで様変わりしていくエイリシュの描写が見事だ。
ブルックリンに着いた頃からずっと着ていた、アイルランドを意味した緑色の服。それが次第に様々な色に変わり、アメリカに染まっていくことを表す。トニーの「君が忙しいのは分かってる。だから、どうか家まで送らせてよ」なんてセリフ、染まらないわけがありません。

 やがてエイリシュを襲う故郷からの悲報は、決して他人事ではない。トニーのおかげで順風満帆な日々のなか、突然人生の岐路に立たされ、選択を余儀なくされる。これは誰にでも訪れるであろう宿命みたいなものだ。
家族が突然倒れたらどうする? 親をたった一人にすることができる? さらに故郷でもう一つの未来の可能性を感じさせるジムが現れ、母は彼と付き合うことを勧める。
老いた母親の側にいてあげたい。愛する人がいるブルックリンと故郷の狭間で揺れるエイリシュの葛藤は、誰にとっても痛いほどよく分かるはずです。