春画に出てくるあの紙はなんだ?
春画は性の営みを描いた“風俗画”である。
簡素な春画ももちろんあるのだが、当時の読み手が楽しめるように絵師たちは交わりだけでなく、着物や小道具など細部まで手を抜かなかった。
例えば、上の春画は文庫本ほどの小さな豆版春画ながら緻密に仕上げられ、鑑賞者を笑顔にする工夫が施されている。
よく見ると、江戸期の春画の中には、頻繁に折りたたまれた“謎の紙”が描かれている。
「現代でもベッドサイドにティッシュ置くし、セックスに使うんでしょ?」
という声が聞こえてきそうだが、ではこれらの紙はどのような種類の紙で、具体的にどのような所作で、どういった用途で使われたのだろうか?
今回はそんなセックスと紙の関係を、実際に2種類の紙を見ながら話します。
「生漉紙」と「漉返紙(すきかえしがみ)」
ザックリと説明すると、和紙の原料から①「生漉紙」と②「漉返紙(すきかえしがみ)」ができる。
①「生漉紙」
植物繊維を新規に紙良に調整して漉いた紙
②「漉返紙(すきかえしがみ)」
紙屑や故紙を更生させて漉いた紙
①の「生漉紙」の代表例は「吉野紙(よしのがみ)」と呼ばれ、江戸期では漆漉紙としてや性の営みにおいても欠かせないものだった。
「吉野紙」は奈良県吉野町国栖地区の清らかな川の流れと恵まれた山間の水から生まれる上等な和紙である。江戸期当時の薄い紙の代表であり、柔らかいので「やわやわ」と呼ばれることもあった。
今回この紙を題材に取り上げるにあたり、資料を引用して語っても伝わらないと思ったので吉野紙を買ってみました。
初めて触る吉野紙は薄く、紙の向きによっては指に力を入れても簡単には破れず丈夫で、高級和紙のポテンシャルの高さを垣間見た。
一方で、②「漉返紙(すきかえしがみ)」は種類により質の高さに差があるものの、低級の紙の代表に「浅草紙」があり、便所で尻を拭くために使用したりした。浅草紙は鈍いねずみ色で様々なゴミが紙に残留している。
浅草紙の原料には、新吉原の遊廓から毎日大量に排出される事後に使用した「故紙」が利用された。山谷堀近くの紙漉き場は原料に困らず水利の便もよかったため、新吉原と浅草紙は切っても切れない関係だったのだ。
こちらは浅草紙ではないが、江戸期の低級の再生紙の例として紹介する。
文久三年(1863年)刊行、女性のための教訓書『女大学宝箱』の表紙も再生紙が使用され、よく見ると髪の毛やら藁のような屑がたくさん混ざっている。江戸期を生きた人々の毛が混ざっていると思うと少し感動してしまった。
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