「性はおめでたいもの」老夫婦のセックスを描く春画からのメッセージ/春画―ル

柳川重信《天の浮橋(あまのうきはし)》 柳川重信《天の浮橋(あまのうきはし)》

『一瞬ね、離婚しようかなって考えがあたまに過ぎったの。でもね、今はもう大丈夫、尊敬してるし愛してるわけよ。』

そんなことを結婚20年目の知人から聞いて、心の底からすごいなあと思った。
20年も同じパートナーとわたしは仲良く暮らせるのだろうか?

デイヴィッド・J・リンデン氏の著書『快感経路』によると、社会学者の行った面接調査[長期的な関係を保っているカップルの恋愛初期状態の持続時間はどれくらいか]で、最初の頃のいわゆる情念的な感情の高まりやドラマチックな恋愛感情が持続するのは、通常9ヶ月から2年だという。この調査を参考にするならば、個人的にはこの9ヶ月から2年の期間がパートナーとの長続き可能な関係を築く手がかりだと思っている。
「今後『あなた』とどうしていきたいか」、の真剣な話について真摯に向き合ってくれないパートナーとは先ず長くは続かないだろう。

しかし、ここで疑問なのだがそもそも、ひとりのパートナーと末長く添い遂げることがベターである、という考えはどこからやってきたのか?
(もちろん家族が増えたら、そこは自分たちだけの問題ではないのだが。)

かの有名な結婚情報誌の広告でこのようなコピーが打ち出された。

“結婚しなくても幸せになれるこの時代に、私は、あなたと結婚したいのです”

当時わたしと同じようにこのコピーに強く共感した人は多くいたようだ。このコピーを作った方は、結婚を決めた時の強いエネルギーをストレートに表現したかったと後日のインタビューで応えていた。

でっかい愛をだれかとグングン育みたいと思ってる気持ちは奇跡であり、尊いと思うのが大多数の考えのようだ。

絵師不詳《にし河筆姿(にしかわふですがた)》 絵師不詳《にし河筆姿(にしかわふですがた)》  

以前、老夫婦の春画をSNSでツイートしたとき、多くの好感の反応があった。

「歳はとったが、こればかりはむかしから変わらないね」と言いながら、きつく抱きしめ合うふたり。ふたりの目じりには生きた分だけのシワが刻まれているが、愛が朽ち果てることはないと伝えてくれるようだ。なんだか愛おしさとともに、あたたかい気持ちになる春画だ。

反応が高かったということは、つまりその絵の精神性に賛同したいと思った人が多かったということだ。みんなが求めているパートナーとの関係は、薄まることのないスープストックのように濃厚な関係。ともに白髪になっても、グツグツ煮詰めてほっぺが落ちそうな関係にしていきたいんだと感じた。

江戸期の初期から中期頃の艶本で老夫婦の春画を時々見かけるが、「人生のひとつの分岐点」という題材で描かれている。この日本昔話のような『ふたりは仲良く末長く暮らしましたとさ、めでたし、めでたし』を微笑ましく受け入れられてきた理由として、夫婦の和合(仲良く交わる)と共に、仲良く長生きしたいという伝統的な心象が長く受け継がれてきたことが考えられる。その手掛かりとなる神話や謡曲が存在するからだ。