好きなひとの寝顔はなぜこんなにも愛おしいのか
喜多川歌麿《会本美津埜葉那(えほんみつのはな)》
スウスウと寝息をたて、お口をあんぐり開けて健やかに眠るカレ。その寝顔をやさしい表情で見つめる彼女。
ふたりは夫婦かもしれないし、そうじゃないかもしれない。“櫛巻き”という髪型をした彼女は、自分の身体を半分だけカレにかぶせて密着し「よく寝てることだなあ」と独り言。
ふたりの大切な時間。彼は彼女がこんな表情で自分の寝顔を見ていることなんて知りもしないし、彼女も何も言わないかもしれない。しかし、こんな何でもない時間が心の底から幸せだったりする。
彼女は早く起きて欲しい気もするし、まだ寝かせてあげたいと思っているのかもしれない。
わたしはこの1枚の絵からふたりの親密さや彼女がいかに彼を好きかを感じられた。
寒い雪の朝、ふたりは昨夜を思い出す
歌川国芳《吾妻文庫(あづまぶんこ)》
手が寒い寒い、あったかい君のおしりにタッチ。
夜の間にしんしんと積もったのだろうか。雪で真っ白になった庭を見ながら、房楊枝で歯を磨く彼女。
先に身支度をしている彼女の背中が愛おしくなったのか、それともひとりの蒲団が寒くなっただけなのか。温かな彼女のおしりを触りにくるカレ。
寝っ転がって邪気のない甘えた彼の顔を見て、彼女も自然と笑顔になることでしょう。
障子の隙間からは蒲団と散乱した始末紙を伺え、昨日ふたりがどんなに楽しんだのか、自然と想像してしまいニヤニヤが止まりません。
春画をアートとして見たり、歴史的な資料として見るのも自由です。しかし、わたしはみなさんの中で芽生えた感情や大切にしてきた経験と、春画に描かれている場面がリンクすることで感動や笑いがうまれ、それぞれの人生がより豊かなものになればよいとも感じています。