「女性のエロスイッチは視覚ではない」は本当か?――ポルノの男女比較、日米比較

女性のエロスイッチは視覚ではない?

服部恵典 東大 院生 ポルノグラフィ 研究 Guilherme Yagui

「男は目で恋に落ち、女は耳で恋に落ちる」。
イギリスの政治家、ジャーナリストのウッドロウ・ワイアットが言った、誰もが聞いたことのある言葉である。

 男女の性愛の違いについては、他にも「女はシチュエーションを大事にする」とか「女は関係性を大事にする」とか、様々なバリエーションを聞いたことがあるだろう。
何にせよとにかくこういった言葉は、女性は目で恋をしないということを言っているわけだ。
ポルノについての連載用に大胆に言い換えれば、「女性のエロスイッチは視覚ではない」ということである。
だが果たして、それはどこまで本当なのか?
この命題を吟味するのが今回のテーマである。

 たしかに、女は目ではないという考えは、世間に流布するだけあって一理ある。いや二理、三理ぐらいあるかもしれない。
なにしろこうした格言や分析は、ただ個人的な経験から述べられるだけではなく、場合によっては進化生物学や脳科学を引用して説明される(俗流のものは、文系学生の私でもちょっと検索して調べれば分かるぐらいの間違いもあったりするが)。

 しかし、だ。
女性向けAVが一定の成功を収めつつある今、「女性のエロスイッチは視覚ではない」という主張にかつてほどの説得力はない。
結局、女性がAVを観なかったのは、部分的には、18禁の店やコーナーに入りづらいというAVへのアクセスの問題であり、「こういうのが観たいんじゃない!」という作品の内容の問題にすぎなかった。身体のつくりだけの問題ではなかった。

 デリケートで、人によって考えも感覚も異なるテーマだから、反論やそれに続く反論はいくらでもありうるだろう。
それらすべてを考えることは不可能だけれども、「『女性のエロスイッチは視覚ではない』とそう単純に言えるだろうか」ということについて、この連載のテーマに沿ったかたちで検討してみよう。