女性向けAVの男性によるパロディ

『兄貴の超かわいい彼女を…』では性行為は激しく、そして加虐的になっている。たとえばフェラはイラマチオっぽくなり、セックスのフィニッシュは口内射精に変更されている。それから、服を脱がせるシーンがカットされていきなり全裸になってしまっているなどの違いがある。
またストーリーは、『兄カノ。』では電話の邪魔が入って挿入に至らなかった場面も、ガンガン本番行為がなされるように変更された。つまり童貞卒業が1回分早くなっている。

 最も本質的な違いは、画面を構成する「視線」の相違、すなわち男性主観映像が増えたところだろう。
第1回第2回で述べたとおり、男性向けAVの特徴は手前にいる「男」が「女」に眼差しを注ぐ「奥行き」の配置で、女性向けAVの特徴は第三者視点から「男女」を同時に眺める「広がり」の画面構成である。
『兄カノ。』とその男性向け版の差異は、今まで連載で書いてきた分析と適合的だ。

 けれども、私にとって興味深かったのは、2作品の相違点よりもむしろ2作品がそれほど違わなかったという点だ。
私はてっきり、翔太がもっと悪者に見えるようにストーリーに追加があるのだと思っていた。だが、童貞卒業が早くなっただけで、翔太の性格に特に変更はない。
それなのに、年下の男の子への恋心に気づいていく心温まるハッピーエンドが、「AV語」に翻訳されて、「兄貴の超かわいい彼女を童貞の僕が寝取ってヤった。」という倫理観の欠片もない武勇伝になっているのである。

 しかし男の私は、この胸糞悪い編集にちょっとスカッとする部分もある。
これに関わるのが『兄カノ。』の興味深いポイントの2つ目、ふだんは男性向けに作っている人気メーカー「kawaii」が制作しているという点だ。
『兄カノ。』は女性スタッフだけで作ったそうだが、その男性向けへの編集は、甘く美しいストーリーに対する男によるパロディである。
「男ってのはそんなキレーな生き物じゃねーぞ!」と露悪的にふるまってガハハとあざ笑うかのようなこのヤンキー性、ヤリチン性に「よくぞ言った!」という気持ちもうっすらあるのだ。
男性向け作品を女性向けに編集する「GIRL’S CH」のもつパロディ性とともに、今後注目してみたいポイントである。