女性を「じゅわっ」とさせる男
イベント後半、生放送が終わってからのアフタートークは、月野帯人と今立進が質問をぶつけ合うコーナーから始まった。
このとき、「どうしたらすぐイカなくなりますか」という今立のマネージャーからの問いに月野が、「プライベートですよね? 仕事じゃないんですよ、イケばいいじゃないですか」「(すぐ2回戦やるためのテクニックは)一概には言えないですよね。[…](大事なのは)気持ちじゃないですか、多分。どんだけヤリたいかっていう」とこれまでの受け答えからは考えられないほど饒舌に堂々と答えていたのが印象的だった。
私はここに、エロメン・月野帯人の矜持を見た気がした。
その後、バカゲーやクソゲーが大好きだという今立が持ってきた、セガサターンの『THE野球拳スペシャル~今夜は12回戦~』で遊ぶ。
1995年発売されたアダルトゲームということで、正直、出演している12人の女性は全員「誰を選んでもなあ……」というレベルである。
しかし、イベント中にセレクトした「美咲舞」という女優は、後からDMM.R18で検索をかけたところ、2013年発売の四十路・五十路モノ作品にも出演していた。
あのときは、「この人らも2016年に見られてるとは思わないでしょうね」という今立の一言に会場全体が笑ったものだが、実際は割と最近まで活動していたわけで、我々は「AV女優の人生」に関して、想像力が“笑ってしまうほど”欠如していたのかもしれない。
さて、ジャンケンに5回勝てれば女の子が服をすべて脱いでゲームクリア、5回負けたらこちらが服をすべて脱いでゲームオーバーというルールで、ツッキーが挑戦する。
ゲームの女性よりも薄着だったツッキーは、3回負けても指輪⇒腕時計⇒ネックレスと外していき客席を焦らしていたが、とうとうズボンとシャツを脱いでパンツ1枚になったときの客席の興奮といったらなかった。
客席は途中から、間違いなくツッキーよりもゲーム側を応援していた。
イベントの最後は大抽選大会である。
月野帯人の私物(カワウソのぬいぐるみ、パジャマ、ブーメラン水着、10年前のプリクラ)と2ショットチェキの権利が、くじ引きでファンに配られる。
そして特賞はなんと、1分間のハグ。
照明がピンクに変わり、ムーディーな(?)BGMとして松田聖子の「SWEET MEMORIES」が流れ出すと、月野がファンをそっと抱きしめる。
遠くから見ていたからよく分からないが、何か囁いているようだった。
ツッキーのサービスだったのか、あまりの興奮にファンの女性の腰が砕けたのか、段々と押し倒されるような形になり、客席からの死角に2人の姿が消えていった頃に1分が経ったことを知らせる号令がかかって終了。
この1分間、会場から「きゅんっ」というより「じゅわっ」というような音が聞こえた気がした。
別に下品な意味ではなく、デトックスというか、何か若さのエキスが勢いよく分泌されたような感じである。
世の中に、女性を「きゅんっ」とさせる男はいくらでもいるかもしれないが、女性を「じゅわっ」とさせる男がどれだけいるだろう。
不思議な興奮に包まれ大盛況のまま、イベントは無事、幕を閉じたのだった。
* * *
学問に限らず、恋愛でも何でもそうかもしれないが、ある対象に関して「すべて分かった」と思ってしまったら、終わりだ。
いくら考えても掴み損ねてしまう部分が残る不即不離の関係だからこそ、我々はその対象に情熱を注ぐことができるのである。
その点、月野帯人はいくら考えても分からない。
月野帯人という予測不可能な未知を前にして、我々はその好奇心を抑えられない。
月野はきっとすぐにこのイベントを忘れてしまうのだろう。それでいい。
だがきっと我々は、この男のことを忘れることなど、出来やしないのである。
Text/服部恵典