デートの日まで車椅子のことやHIV陽性のことを口にしなかった彼の出会い系プロフィールは顔写真と簡単な自己紹介だけだった。他のプロフィールと何ら違いはない。何も嘘はついていないが、すべてを公開しているわけではない。
もちろん、ありのままの自分を晒していない彼を責める気はない。
問題なのは、彼が車椅子ではなく両足で歩いて、HIVに感染なんてしていないと勝手に頭の中で決めていた自分の方だ。そんなこと、彼が目の前に現れるまで考えてもみなかった。
少し前に、トロントでアクティブに活動しているゲイの障がい者から話を聞く機会があった。
脳性麻痺で電動車椅子が欠かせない彼は、ただでさえバリアフリーのゲイバーは珍しいのに、せっかく中に入れてもまるで透明人間のようだと言っていた。
「自分なんかより体が不自由じゃないゲイの方がいいんだろうね。障がい者とはセックスできないと思ってるのかな?自分を知ってもらうチャンスもなかなか勝ち取れないんだ」
障がい者という部分だけではなく、一人のセクシーな人間として見られたい。彼にとってはそんな些細な願いも難しい。
一番言われて頭にくるのは「君って障がい者なのに可愛いね」だという彼は、いつか「君って障がい者だし、可愛いね」と言われるような社会を目指して日々頑張っている。
そういえば、あのデートの続きを話してなかった。美味しいランチで空腹を満たした私たちは公園に座って心地良い風と青空を楽しむことにした。ポケットから薬用マリファナを出した彼はプカーっと一服して、こっちをじっと見て、微妙な表情を浮かべて口を開いた。
「君、話してて面白かったんだけど、あんまりタイプじゃないんだ。申し訳ないんだけど、これでお開きしない?」
あっさりフラれてしまった。
Text/キャシー