昔、GREEは出会いの場だった。大酒飲みの女性と根津でサシ飲み/中川淳一郎

今やゲームのプラットフォームといったイメージが強いが、2000年代中盤、GREEは出会いの場だった。「渋谷近辺で働く方、ビジネスランチしませんか?」といった誘いが頻繁に展開されていたのだ。都市型のSNSといったところだろう。今でいうところの「意識の高い若者」が積極的に使用していた。

そんな中、フリー編集者の僕は、ランチを食べる習慣がないため、こうした会には参加しなかった。だが、「大酒飲みの会」的な場所には入っており、その中の陽子さんが毎晩のようにビールの写真を公開していたのと、その文体が好きだったため、彼女に興味を抱いた。顔写真は掲載していなかったが、ビール好きの僕はある日、意を決して陽子さんをサシ飲みに誘ってみた。

「陽子さん、多分、行動エリアも似ていると思います。今度渋谷で飲みますか?」

サシとはここでは明言していないものの、他の邪魔者にはいてほしくない。こうした場合、「じゃあ、〇〇さんも誘いますか」などとサシ飲みを拒否する女性もいる。その場合はドキドキ感が減る。結局サシ飲み成立というものは、「果たして今晩我々はエロをするか」という駆け引きの第一のハードルなのだ。サシ飲みまで至った場合、その日いきなり、ということはないだろうが、「次はいつ飲みますか?」と約2週間後の約束を取り付け、次はどうなるか? といったドキドキ感とワクワク感を抱きながらそれからの2週間を過ごすのである。

ビール好きの女性と意気投合し…

さて、当日、待ち合わせた居酒屋の座敷席で彼女はニコニコしながら待っていた。文体の雰囲気通りの柔和なタイプで、大きな垂れ目でショートカットが似合う女性だった。セーターの上からも分かる明らかに大きな胸には目が釘付けになった。

いや、しかしそんなことは考えてはいけない。我々はビールが大好きということで会っているのである。なんとなく普段からのGREEでの投稿から彼女は自分と近い業界にいることは分かっていたが、広告代理店勤務だと言った。だとすれば、酒の話だけでなく、仕事の話や、悩みなども話すことができた。当時僕は27歳で彼女は26歳、それほど権限もなく、使い走りをやるような立場のため、その点でも気持ちはよく合った。

2人合計で中ジョッキ14杯ほどを飲んだらへべれけになってしまうも、その後はなじみのスナックへ行き、水割りを飲んでこの日は解散。23時頃になっていたが、彼女は電車で帰れるという。僕も意識はちゃんとあったので電車で帰った。次の約束は10日後、渋谷の別の居酒屋ということになった。

僕は彼女のことを想像しながら家に帰るとオナニーをし、ぐっすりと眠った。基本的に僕は女性の方から「今日はヤろう」のサインを見せない限りは誘わないようにしているため、次に会うときもあくまで「陽子さんとビールを飲むのが好き」という体を取ることを決めた。

2回目の飲みで陽子さんから提案が

そしてやってきた2回目の飲み。今回も大量にビールを飲み、再びスナックへ行き、次の約束を相談した。

「あ、そうですね、ニノミヤさん、次は週末、お昼から会いませんか? なんかもっとゆっくりしたいので」

「いいですね! どこ行きたいですか?」

そういった話から、その日は上野公園や国立西洋美術館、不忍池などを周ることになった。なんというか、これは完全にデートではないか! この日最初のビールは、上野公園の売店で買った缶ビールで、美術館に行った後、不忍池の脇のソフトクリームやらタコ焼きなどを売っている店の外のテーブルで再び缶ビールを飲んだ。弁財天を抜けゆっくりと不忍通りに出て、根津方面まで歩いていく。この日、予約している根津の名居酒屋でしっぽりとビールを飲むのである。

二人して今日が楽しかったことなどを振り返り、イイ感じで酔っ払ったところでカウンターで隣に座る彼女が僕にしなだれかかってきた。

「私、けっこうあなたのこと好きかも」

あ、これは今晩はアリだな、と判断し、僕は彼女の耳元で「今から湯島のホテルに行きませんか?」と誘った。彼女は声を出さず、コクリと首を振った。