打ち上げ花火を見ながら……

歌川芳虎「開註年中行誌(かいちゅうねんじゅうぎょうじ)」1834年 国際日本文化研究センター所蔵

この日は一段と暑い日だったようで、行水を終えた娘は物干し台で団扇を扇いでいます。すぐ浴衣を着るには汗がひかないようで腰巻だけの身なり。すると精さんがやってきて一緒に涼むことになりました。娘のおっ母(かあ)は花火を見に外出中で今は精さんとふたりきりです。

精さん「今、頭(かしら)のところで酒を飲んできたから、たいそう熱い。着物を着ていられねえ。おめえも湯上りか。」

娘「ああ、それだから、まことに熱いよ。」

精さん「そいつァ、絶妙だ。おめえは湯開(ゆぼぼ)、俺は酒玉茎(さかまら)。」

娘は物干し台の手すりにつかまり後ろから立ったまま挿入されます。

花火を見て人々の声「たあぁまやぁーーーーーー!!!」

精さん「あれあれ、豪儀(ごうぎ)に花火が揚がるなァ。こっちも負けずにやらかすぞ。ソレどうだ、いいか、いいか。ああ、淫水の星下り。もう、どうもたまらねえ。」

娘「わたしもいいよ、ああ、ふうふう、すんすん、ヲ、いい、いい、いくいくいく~~」

「湯開」は湯に浸かって温かくふっくらした女陰、「酒玉茎」は酒でいきり立った男根、お互いいちばんセックスで最高な状態のことです。

物干し台で花火を見ながらセックス……今ならベランダでセックスというところでしょうか。「たまやーーー」の呼び声で、でふたりの熱い花火もドーーーンと打ちあがります。現代のように高い建造物がない江戸時代。花火が打ち上れば、遠く離れていても楽しめたのかもしれません。

夏の季節が描かれた春画は、着物を着たままふとんの中で……というよりも、蚊帳の中のふたりきりの空間や、外で行水中、祭りの最中などの解放的な場面が多いです。

余談ですが、春画に登場する”腎さん”や”精さん”は「腎水(精液)」など、色事を匂わせる名前です。女性なら”おさね”や”お開(つび)”など女陰を指す名前になることが多いです。

夏の春画を見ていると、個人的には一度、蚊帳の中で寝てみたい! という願望が湧いてきます。天井まで蚊帳で囲まれた空間は、誰も入ってこれない特別な空間のような感覚になれそうです。春画を見ていると、そんな憧れまで抱いてしまうことがあるのです。

Text/春画―ル

待望の書籍が3/31に発売!

わたし、OL。推しは、絵師――美術蒐集はお金持ちだけの特権ではない。
美大に通っていたわけでも、古典や日本史が好きだったわけでもない「わたし」が身の丈に合った春画の愉しみ方をユーモアたっぷりに伝える。自分なりの視点で作品を愛で、調べ、作品を応用して遊びつくす知的冒険エッセイ。個人所蔵の珍しい春画も多数掲載。