長井短の"内緒にしといて"

ねぇ、君たち絶対この後ホテル行くのになんで気付かないふりできるの?/長井短

終電間近の男女の二人の会話。「ホテル行こう」にたどり着くまでにすっかり桜の花びらも散っちゃうよ!なんてツッコみたくなるやり取りを耳にしたことや実際に経験した人も多いのでは?連載三回目を迎えた今回は、それをムードとして楽しめる人と、効率が悪いと省きたくなる人の差を長井短さんが分析します。

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 日ごとに暖かくなってきて、もうすぐ春だなと思ったら雪です。雪の中書く今回の「内緒にしといて」は、もうすぐ春なので恋の話。

 みなさん、恋してますか?私はこう見えて毎日恋に落ちています。昨日も駅のホームで好きな人ができました。一昨日はサイゼリア、一昨々日は汚い中華屋、全員名前も声も知らないけど、「あ、かっこいいな」と思って、しばらく彼のことを考えます。次の日にはほぼ何も思い出せず、唯一覚えているのは「ツーブロックの眼鏡」。恋愛から遠ざかりすぎて、気づけばツーブロックの眼鏡なら誰でも好きになる病気になってました。やべーだろ。

ムードvs効率

 恋をできていない代わりに、飲食店でよく盗み聞きをしています。私の大好物はカップル結成、もしくはチェックイン直前の2人組の会話です。この間磯丸水産に行ったら、まさにゴールテープを切ろうとしている男女に出会いました。2人はどうやら友人関係。その裏にはしっかり下心が根を張って、互いに抱く気満々です。時刻は0時過ぎ。そろそろ終電の時間です。
男「時間平気?」
女「あ〜そろそろ終電かも」
男「そっか〜」
女「あ、でも明日休みだから大丈夫。明日早い?」
男「いや、俺も明日は休み」
女「あ、じゃあもうちょっと飲も〜」
男「そうだね」
女「・・・でもずっと磯丸は疲れちゃうね」
男「そうだね。店変える?」
女「う〜ん。でもちょっと飲み疲れたかも」
男「そうだね。カラオケでも行く?」
女「そうだね。あでも今日連休だから空いてなさそうじゃない?」
男「そうだね。どうしよっか。漫喫とか?」
女「そうだね。あでも漫喫だと喋れなくない?」
男「そうだね。」
そうだねの地獄・・いや、もう分かってるでしょ。分かるじゃん。もう2人ともホテル行きたいじゃん。行こうよ。混むよ?とっくに答え出てるって。

 真逆のパターンもあります。友達の男の子は気になる女の子と飲みに行く時必ず、
「あのさ、もう先に言うけど俺今日君とセックスしたいと思ってるんだ。どっちでもいいけど終電までに決めてくれる?終電乗らないならホテル行くよ」 効率良すぎ〜〜!でも、私個人の好みでいえば断然こっちがタイプです。だけどこの男の子はよく「もう!なんでそんなこと言うの!ムードなさすぎ!」と怒られるらしくって、ムード・・ムードとは・・・

 前者のチームムードの視点は、主観なのでしょうね。主観君も主観ちゃんも、ホテルの目の前で漫喫に行くふりしてる恥ずかしさなんて気にならないのです。だって、その恥ずかしさは2人の周りの空間が語っているだけだもん。空間なんて主観じゃ見えない。主観君たちにとって何より大切なのは、今2人の間を漂う空気なのです。

 一方効率重視の後者はゴリゴリの俯瞰タイプ。ホテルの目の前で漫喫の話なんて恥ずかしくて絶対にできません。俯瞰君俯瞰ちゃんは空気よりもそれを内包する空間を重視します。頭の中には常にナレーションが流れるし、自分の言動を他人事のように考察するので、気づかないふりなんて小芝居をしようものならすぐにもう1人の自分に馬鹿にされます。