「金の話」は揉めやすい
「金の話」というのは二位の「麦茶のちょい残し」を大きく引き離して「揉める話題」第一位である、そういう夫婦は特に避けがちな話題なのだ。
よって、日ごろから頻繁に議論を紛糾させている夫婦より「うちは全然ケンカしないよ~」とちょっと得意げに言っている夫婦の方が、二千万問題を乗り越えられない可能性がある。
少なくとも、しょっちゅうケンカしている方が「相手に保険金をかける」等のアイディアが浮かぶので、問題から目をそらして思考停止しているよりはマシだ。
しかし「衝突を恐れてはダメ!お互いのために本音でぶつかりあおう」という、スポ根みたいな考えが必ずしも正しいとは言えない。あんなのは体育会系の男子高校生だから出来るのだ、文科系の中年夫婦がやったら即死の恐れがある。
何故なら、ケンカを恐れてはダメと言っても、間違いなく「ケンカは恐れるべき怖い事」なのだ、家族ならして良いというわけでは、しないなら、しないにこしたことはない。
ケンカ慣れしている人間なら「今日はこのぐらいにしといたるわ」という加減も引き時もわかっているだろう。しかし、慣れていない人間のケンカというのは「とりあえず刺す」だったりするのだ。ケンカし慣れてない夫婦のケンカというのは、その1回が命取りになりかねない。
それ以前に「ケンカの仕方自体わかってない」場合も多い。私が夫に怒られたら、とりあえずビックリしてしまい「何を怒っているかわからないが、怖いから、とりあえず謝って終わらせよう」というハナから話し合いを拒否した姿勢になるだろう。
私もインターネットで怒るのは得意だが、面と向かって人間に怒るというのは「やったことない」のレベルなので、怒っているというより「半狂乱」になる可能性が高い。まず、4本足歩行になるだろうし、とてもじゃないが「言葉」などという高度な技術は使えそうにない。ケンカが「話し合い」につながるなら良いが、そうでなければ、やはりしないにこしたことはないのだ。
よって「ケンカしないことが売り」の夫婦は、やはりケンカしない方法で行った方がよい。
具体的には、今の方針をガラっと変えようというのではなく「今のままでいいとは思うんだけど…からの~」とプラスアルファお互い定額貯金しよう提案してみる。または「こうすればこれだけ貯まってしまうよ!」と、全然楽しくないのに、あたかも楽しいことのように言ってみる、とかだ。
回りくどく、しゃらくさいが、正面衝突出来ないなら、このぐらい迂回する必要がある。ぶつかり合えば良いというものではない、事故死したら意味ないのだ。
Text/カレー沢薫
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