夫にしかけたソシャゲーマーの罠

前回、夫との会話があまりにも盛り上がらない、という話をしたが、そうは言っても結婚までしたのだから、何かしら共通の趣味、話題、気が合う部分があったんだろう、という話である。

我々夫婦の会話は少ない。だが、365日飽きずに語り合っている激アツな共通の話題が確かにある。

それは「あいさつ」「気候」だ。

起きたらまず「おはよう」と言い、その後は、今日は暑い、寒い、晴れ、雨、今は降ってないがこれから振る、または晴れる、など話す。

そして夜は「おかえり」「ただいま」、今日は寒かった、暑かった、晴れてた、雨だった、など語る。

逆にそれ以外はあまり話さない。付き合っていたころから、共通の話題や趣味はあまりなかった。

夫もゲームやソシャゲは好きだ。しかし夫がやっているゲームを私がやることはないし、逆もない。「お互いの趣味に興味がない。自分の趣味に相手を付き合わせようとしない」という所だけは共通している。

それは、お前が乙女ゲーばっかりやっているから、それを夫がやるはずないだろう、などと思われては困る。私は乙女ゲーも好きだが、乙女ゲーでもなんでもないゲームを乙女ゲー視点でやるもっと性質の悪い夢豚だ。勘違いするな。

だが同じゲームはやっていないとしても、同じソシャゲプレイヤーなので、ソシャゲが共通の話題にならないわけではない。夫がソシャゲをやっていたら「調子はどう?」ぐらいの声はかけるし、それに対し夫は現状を報告する。そして私が「やってねえからわかんね」と返す、1.5往復ぐらいの会話は成立していた。

その中で、夫はたびたび「自分は無課金プレイヤーである」と謳っていた。

私はそれに「ほう」と言っていたのだが、心の中では「そんなことありえない」と思っていた。課金していると言ったら、怒られると思ったから言わないだけだと。私はそれがわかっているから、自分の廃課金ぶりは夫には言っていない。

なので、罠をしかけた。

課金の際に使うgoogleplayカードを夫にあげたのだ。廃課金はこのカードを見ただけで、もうヨダレが止まらない。夫の顔を見ると「口がヨダレでパンパンのリス状態」ということはなかったが、普通にカードは受け取った。

夫はそのカードをしばらく、はじめてライターを渡された原始人のごとくスマホと交互にいじっていたのだが、なんとその後「使い方がわからない」と返してきたのだ

どうやらマジだったようである。

課金プレイヤーなら「もらったカードを返す」なんてことはありえない。吐いた唾を飲み込むぐらい恥ずべき行為だ。夫が課金童貞、ショックである。

しかし、夫婦共に同じソシャゲをやり、課金額を競い合っている、みたいな関係が本当にいいかは別である。

私は、好きなことは一人でやるのが好きだ。

ドラマにもなった「孤独のグルメ」の良いところは、楽しいことを一人で甘受することを、全肯定しているところだと思う。

そこに、飯は大勢で、家族で、恋人と、大切な人と食べるのがいい、みたいなステレオタイプが入るから、一人が好きな人間は自分をさびしい人間だと思ってしまうのだ。

結局、夫婦も会話が多くて、共通の趣味があるのが良いというのも偏見であり、一見良さそうに見えても「実は夫の趣味に付き合うのが辛い」「妻のつまらない話を聞くのが苦痛」という人だっているはずだ。

仮に、今現在、私の唯一の希望であるアニメ「刀剣乱舞 花丸」を夫と一緒に見たとしよう。

まず、OPで長谷部が出てきた時点で一時停止、30分休憩を挟む。前まで1時間ほど休憩していたがようやく慣れてきた。

その後、感極まるシーンが出てくるたびに、一時停止、休憩、ツイッターに「ちょっまっ」とかつぶやく。

奇声こそ発しないが、起立と着席を繰り返し、体は常に西野カナばりに震え、たまに堪えきれずに「ブフォッ」とか言う。

正味25分ぐらいのアニメだが、少なくとも鑑賞に1時間以上はかかる。この時点で夫は相当イライラしていると思うが、その後三時間ぐらい私の感想を聞かなければいけないのだ。それも、ずっと「尊い」しか言わないのである。

おそらく次から「一人で見ろ」と言われるだろう。

夫婦が共有した方がいいことも多々あるだろうが、「一人でやった方がいい」こともたくさんあるのである。

Text /カレー沢薫

※2016年11月14日に「TOFUFU」で掲載しました