更なる苦情

苦情と言えばお菓子の件以外にも。

「パパがぜんぜんあそんでくれない―!」

「パパはいつもおしごとじゃーん!!」

(おや……)

読者の混乱を招くので、説明せねばなるまい。

特に二つ目は。

いや、確かに当方、“一発屋”である。

“いつもおしごと”ではない。

人一倍休みはあるし、当然、在宅率も高い。

しかし、家に居てもすべきことは山程ある。

何かの作業であったり、書き物をしたり。

そういう時に限って、

「パパ、あそんで―!」

娘が僕の元へやって来る。

すると、ついつい、

「パパ、今お仕事してるから終わったらね!」

などとおざなりにしてしまうことも多い。

僕の能力の問題もあるが、実際終わらないのだから仕方がない。

決して忙しぶっているわけではないので念のため。

特に夏休み真っ最中の娘とは毎日家で顔を合わせるので、その都度前出のやり取りが再現される。

以上の二つの苦情、“お菓子をくすねる父親”と“仕事が終わったらね!”が、娘の脳裏に刻み込まれ、熟成された結果、僕は思わぬ罵声を浴びせられることとなった。

因果応報である。

先日。

家族揃って、行きつけの小料理屋へ出かけた時のこと。

顔馴染みの女性店員が、注文を取りに僕達のテーブルにやって来る。

「……とりあえず、以上で!」

注文を終えると、彼女が、

「パパに何処か連れていって貰ったー?」

娘に優しく語りかけた。

常連客の御機嫌を伺おうとしただけ。

他意はない。

しかし、この一言が引き金となり、僕を怖ろしくみっともない立場に追い込む台詞が娘から放たれる。

「どこにもいってない……パパおかしばっかりたべて、ぜんぜんおしごとしないからー!!」

自分の父を、ディズニー映画に出てきそうな、お気楽メルヘン野郎だとでも思っているのか。

余りの言い草に思わず、

「……いや、そんな事無いよ!」

五歳児相手に、むきになって否定したが後の祭り。

周囲には他の家族連れも居る。

(クスクスクスクス……)

聞こえてくる押し殺した笑い声は幻聴ではあるまい。

何より、女店員の、

「……へー……」

という無感情な返しが、僕の心に突き刺さる。

当分、あの店に行くことはないだろう。

※2017年8月22日に「TOFUFU」で掲載しました。

Text/山田ルイ53世