「実はうち、事実婚なんだよね」と何人かの女友達から聞いたことがある。「隠してるわけじゃないけど、親しくない人にいちいち事情を説明するのが面倒くさくて」と彼女らは言う。事情として多いのは「親に結婚を反対されて」というものだ。

　女友達の1人は「うちの親が『うちの姓を残したい、彼に婿養子にきてもらえ、じゃないと許さない』と言い出して、さんざん揉めに揉めて、事実婚を選んだ」と話していた。そして「選択的夫婦別姓が認められてほしいなあ…」としみじみ呟いていた。

　このように切実な事情を抱える人もいる。

　選択的夫婦別姓は別姓にしたい人が別姓を選べるだけで、同姓にしたい人に何の迷惑もかからない。「別姓にしたら家族の絆が崩壊する」と思う人は、自分は同姓を選べばいいだけだ。

　というか、苗字で絆がどうこうなるなんて誰も本気で思ってないだろう。

「両親の苗字が違うと子どもが可哀想」との意見もあるそうだが、両親の苗字が同じでも不幸な子どもはいくらでもいる。なにより、可哀想と思うことが（ひとり親や事実婚や離婚家庭などの）家族の多様性を認めない見方であり、そっちが変わるべきだろう。

　我が両親は同姓だったが毒親で家庭は木っ端みじんに崩壊した。私は「あの子は可哀想」という目で見られることが一番つらかった。

　そもそも私は「選択的夫婦別姓に反対！」という人に出会ったことがない。なので「ほんとに実在するの？UMAでは？」と疑っている。

　夫婦同姓の日本では3組に1組が離婚して、未婚化と少子化も進み、事実婚の多いおフランスでは子どもが増えているざんす。

　政府もどうにかしたいなら、少しでも結婚のハードルを下げるべきだろう。

　私は結婚して姓が変わった時、銀行口座もクレジットカードも印鑑も印鑑証明も各種証明書も全て変更して、全ての取引先に振込先の変更を依頼して、死ぬほど面倒くさかった。

「じゃあ夫に変えてもらえばいいだろ」とチンパンジー以下の発言をする人もいるが「なんで自分がイヤなことをパートナーに押しつけなあかんねん」という話だ。パンくんなら「面倒くさい作業がなくなればいいですよね」と言うだろう。

　要するに、選べる選択肢を増やすことが重要なのだ。

　手続きは面倒だったが、私は夫の姓に変えるメリットも感じていた。旧姓はややマイナーな苗字で夫は超メジャーな苗字なので「事件を起こした時に特定されにくい」と思ったのだ。

　冒頭の「何か事件があるといけないので」は「私が事件を起こすといけないから」という意味だ。窃盗や詐欺はしないだろうが、「ムカつく奴をぶん殴る」みたいな傷害はありうるし、事件後に「自分ならやると思った」とコメントするだろう。

　夫とも「私が逮捕されたら速やかに弁護士を呼んでくれ」「俺の時も頼む」と言い合っている。

　周りを見ていると、「山田さん」みたいに超メジャーな苗字の人は、マイナーな苗字に憧れる印象がある。かくいう私も夫の苗字が鬼龍院とか西園寺だったら「カッコいい！」と匿名性より中二病が勝ったかもしれない。

　私は「全国の毒島（ぶすじま）さんのためにも、夫婦別姓が認められるべき」という意見だ。

　全国の毒島さんには申し訳ないが、「あなたのことは好きだけど、結婚して毒島になるのはちょっと…」と躊躇されるケースもあるんじゃないか。私も自分が毒島になったら、名は体を表す、名実ともにブス、逃げ場のないブスになってしまう、と戸惑うだろう。

　一方で、旧姓が毒島さんは「結婚して姓を変えたい、美島とかいいな…」と憧れているかもしれない。

　姓を変えたい人もいれば変えたくない人もいて、好きな方を選べるのがベストだろう。心配しなくても、苗字に家庭を破壊するようなパワーはない。

「鬼龍院はカッコいいけど、習字の時に小筆で書くのが大変だから山田でいいや」とか、そんな理由でいいと思う。

Text/アルテイシア

※2018年1月19日に「TOFUFU」で掲載しました。

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