夫の数少ない地雷

ともかく、自分の肉体を過信しすぎ、珍しくやらかしてしまった夫だが、幸い骨は折れておらず現在は松葉杖ではないのだが、痛みはまだあるらしい。

負傷した当初は階段を上ることもできなかったので、2階の寝室ではなく1階に布団を敷いて寝るようにして現在もそうしている。

私は従来通り2階の自室にこもり2階で寝ているため、奇しくも余計家庭内別居らしくなってきてしまった。
そしてもう一つ、洗濯物も二階のベランダに干すため、洗濯物を干すのが私の仕事になった。

むしろ何故いままでずっと家にいるお前が洗濯物を干していなかったのか、という疑問を持たれたかもしれないが、その問いに答えはないので無駄だ。

ただ、私はずっと二階にこもっているため、一階で洗濯が終わったことを気づかないことがある。
夫は滅多なことでは怒らないが「呼びかけに応答がないのが地雷」という性質がある。

ある日、洗濯が終わったことにも気づかず、夫の洗濯終わったぞという呼びかけにも気づかない、ということがあり、夫が足を引きずりながら洗濯ものを二階まで運んで来てやっと気づく、ということがあった。

明らかに怒り気味だし、こちらも久々にやっちまったという感じなのだが、何故そこにそこまで怒るのかという気持ちもある。
ラインでもしてくれれば良いのにと思うが、ラインを送る段階になると「聞こえないの??」とすでにキレ気味だったりする。

しかし、こちらはわざと無視しているわけではなく、本当に聞こえないのだ。

それよりも、トイレットペーパーをちょい残しどころか、芯だけ残して立ち去る、廊下に落ちているゴミを気づいていながら一生拾わないなどもっと確信犯的悪意に満ちたことをしているのだ。

それに怒らず、仕方ないとしか言いようがないことに腹を立てられるのは心外である。
だが「もっと他のことに怒れや!」と言って、数々の私の悪事を並べていったら「お前だったのかい」と猟銃で撃ち殺される逆ごんぎつねが起こりかねない。

よって私は、呼びかけに答えなかったことに対し怒られたら、それに対してではなく他の数々の悪事に対して「ごめんなさい」と謝るようにしている。

つまり、これで全てチャラということだ。

Text/カレー沢薫