ストーリー
少年・堀越二郎(声:庵野秀明)は夢を見ていた。自分の設計した美しい飛行機が空を飛ぶその夢は、やがて戦場で飛び交う戦闘機をつくるという現実になる。
東京に進学し、ドイツへの留学を経て、大人になった二郎は航空技術者として戦闘機“零戦”を設計することになった。
二郎は関東大震災、戦争といった激動の時代の最中、少女・菜穂子(声:瀧本美織)と出会い、恋に落ちる。
飛行機の夢に憧れ、菜穂子という一生をかけて愛すべき人を守り抜く二郎だが、二人には過酷な運命が待ち構えていた――。
二郎は男のロマンであり、すべての人にとっての理想?
涙がなかなか涸れない。
見終わっても、出会いから映画の終わりまで、二人の姿が目に焼きついて離れない。
二郎と菜穂子の、“風”にちなんだ恋愛模様がとにかく美しいのです。
二人は風がきっかけで出会う。汽車の上で、風が堀越二郎の帽子を飛ばしたことで出会う。一度離れ離れになっても、再び風が菜穂子の描いている絵を飛ばして二人は再会する。
紙ひこうきで菜穂子のベランダと二郎のベランダとを繋ぐシーンは、映画史に残る名シーンと言っていい。
最初から最後まで、風が夢と愛を繋げている。
すべての描写が鮮烈に記憶に残り、タイトルを裏切ることなく風が立ちまくり、鳥肌すら立つのです。
しかし、夢に一筋の男が女を一生かけて愛するなんてありえるのでしょうか?
夢に生きた堀越二郎と、愛に生きた堀辰雄。モデルとなった二人の人物を合体させることで、主人公・堀越二郎は男のロマンであり、理想の姿に思えてしまう。
とにかく完璧な人間。誰だって一生をかけて追い続ける夢を持ちたいし、一人の女性を愛し続けたい。
現実ではそうはいかなくても、この理想は映画だけに許される特権。
ある意味、宮崎駿監督にとっての “夢”に思えるのです。
関東大震災で菜穂子を助け、自分だって苦しいはずなのに汗を人前で見せない二郎。
別れた後、顔からドバッと汗を出す。そして、人前では涙も見せない。
菜穂子が病を患っている、との電報を受けてから汽車で会いに向かう彼の目から大量の涙が流れるが、彼女の前では決して涙を見せない。
このかっこよさ、男らしさ。これは女子の間で二郎ブームが起きてもおかしくない。
メガネ男子の最高クラスに君臨する二郎のキャラクターは、現代に生きる私たちにはある意味ファンタジーなのかもしれない。男が皆、二郎のような人物を目指すとなればどれほど素晴らしいことだろう。
舞台である1920年代は大震災が起き、不景気と不況で社会不安に陥っている。これは現代とまったく同じ。
その中でも二郎というキャラクターが存在し得るのは、宮崎駿監督なりの現代人への喝であり、理想なのかも知れません。