「好き!」「私も!」だけで本当は十分だった

くちづけ 貫地谷しほり 竹中直人 宅間孝行 橋本愛 田畑智子 東映 2013「くちづけ」製作委員会

 マコとうーやんが惹かれ合う描写がとにかくカワイイ。
潰した空き缶を集めるうーやんはそれをマコに見せびらかし、少年のような仕草でプレゼントする。少女のように素直に喜ぶマコの満面の笑み。そんな娘の楽しそうな姿に顔をくしゃくしゃにして喜ぶいっぽん。恋愛と親子愛が同時に描かれている。
それはもはや愛情いっぽんどころか“愛情ひゃくまんぼん”ってくらいです。

 子どもと違い、大人はいつだって面倒くさい。世間体や経済力にがんじがらめになり、愛を注ぐべき人に注げない。
純粋に想いを伝えられないせいで、大切なものを失うこともある。
目の前にいる人に素直に「好き!」と言う。……それだけのことが、我々にはどうしてできないのでしょう。

 劇中で描かれるうーやんの妹の結婚は、マコとうーやんの結婚の対比として描かれている。
障害者の兄を持つ妹の結婚はそう容易くない。すべて“大人の事情”が原因である。

「結婚しようね!」
「うん!」

 ほんと、恋愛なんてそもそもこれだけでよかったはずだ。心が少年少女のままの2人がそれを教えてくれる。
だからこそ、マコの死で引き裂かれる結婚が重くて苦しい。この悲しみは、涙で消化したくてもできないのです。

 愛情、そのいっぽんのビンは傷ついて割れてしまった。破片が飛び散り、グサッと心に刺さる。そこから涙がドバッと零れ落ちる。
いつだって涙は愛情からできているのかもしれないし、それを覆う殻は厚くて堅いのだろう。そして、それは映画の中の涙だけではない。スクリーンの前にいる私たちの涙でもある。
ラストシーン、カメラがひまわり荘からゆっくりと引いていき、どこにでもある街を俯瞰する。それは日本中のどこにでもある景色とその物語であることを告げているようで、思わず息が詰まる。

 傍にあるものは決して永遠ではない。
どれほど愛し合っても世間と社会が絡みつき、時間と老いが幸せの形を変えていく。
だからこそ私たちはすぐ傍にある愛の意味をかみ締め、それと一生共に過ごしていく覚悟を決めるべきなのでしょう。
うーやんは、ずっとマコを待っている。ずっとずっと、変わらず待ち続けるのでしょう。

くちづけ 貫地谷しほり 竹中直人 宅間孝行 橋本愛 田畑智子 東映 2013「くちづけ」製作委員会

5月25日(土)より全国ロードショー

監督:堤幸彦
原作・脚本:宅間孝行
キャスト:貫地谷しほり、竹中直人、宅間孝行、橋本愛、田畑智子ほか
配給:東映
2013年/日本映画/123分
URL:映画『くちづけ』公式サイト