“脳内片思い”と“リアル恋愛”の残酷なまでの差に、今日も人々は途方に暮れている。
ヨシカもその一人だ。でも、彼女は諦めない。生まれて初めて男性から「付き合ってほしい」と言われても、そんなリアル恋愛を受け入れたら10年間の片思いを諦めることになってしまう――。
年の瀬にとんでもない傑作が現れた。自己中心的でひねくれ者で、ラブコメ史上最もキラキラしていないヒロインにふるえが止まらない。
芥川賞作家・綿矢りさによる同名小説を、『でーれーガールズ』の大九明子監督が映画化。現在、テレビドラマ『コウノドリ』でも話題の松岡茉優を主演に、ポップかつハードボイルドなラブコメディに仕上がっている。
主人公・ヨシカの初恋相手・イチを『君の膵臓をたべたい』でも好演を見せた人気グループ・DISH//の北村匠海が、ヨシカに猛烈にアタックする同僚・ニをロックバンド・黒猫チェルシーの渡辺大知が演じる。
2017年の東京国際映画祭で観客賞受賞も納得の完成度で、テンポ良く突き進むヨシカの恋路に最後まで目が離せない。
「ファーーーーーッッック!!!」
これを破壊作と呼ぶべきか、閉じ込めていた感情が打ち破られ、笑いとなって放出される快感に酔いしれる。恋愛経験のないヨシカ(松岡茉優)の心の声が可視化され、混じり気のないホンネが炸裂する。
ヨシカの感情一つで、その世界の明暗がころころ切り替わる。自分勝手で夢見がちなのに、そんなひねくれ者を真っ直ぐに応援したくなる。
一途が故に苦しみ続ける、不器用な恋愛模様に思わず笑みが出てしまう。だけど、決して他人事ではない。「これ、私だ」と観る者の生活を隠し撮りされたかのように晒け出される、ヨシカという普遍的な“絶滅危惧種”の悲喜こもごもに時折背筋が凍る。
彼女を笑ったら高みの見物になる。同情したら同類になる。己自身の属性が試されるのだ。
爆笑の陰には冷笑が潜み、笑ってる己自身は何なのかと問いかける。そして、ヨシカという存在が観る者にとって写し鏡であることに気付いてしまう。
そんなヨシカを体現する、本作が映画初主演となる松岡茉優の表現の振り幅に度肝を抜かれる。
イチ(北村匠海)が自分と同じ東京在住であることを知った時のテンション爆上げの笑顔から、ニ(渡辺大知)とデートする時の軽蔑心丸出しの目つきまで、24歳OLの等身大の恋愛にまつわる喜怒哀楽を隅々まで楽しめる。
家の中で感情がはち切れて「ファーーーッッック!!!」と絶叫する様など、全く新しいタイプのコメディエンヌとして強烈な印象を叩きつける。
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