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  • 2017.11.22

年の瀬のとんでもない傑作!10年片思い中の24才OLの恋『勝手にふるえてろ』

中学時代の同級生・イチに片思いを続ける24才OLのヨシカは、会社の同僚・ニに告白されて人生初の経験に舞い上がるも、イチと再会するためにある計画を企てる——。綿矢りさの同名小説を松岡茉優主演で映画化。

「勝手にふるえてろ」のキャプチャ画像
©2017映画「勝手にふるえてろ」製作委員会

 “脳内片思い”“リアル恋愛”の残酷なまでの差に、今日も人々は途方に暮れている。

 ヨシカもその一人だ。でも、彼女は諦めない。生まれて初めて男性から「付き合ってほしい」と言われても、そんなリアル恋愛を受け入れたら10年間の片思いを諦めることになってしまう――。

 年の瀬にとんでもない傑作が現れた。自己中心的でひねくれ者で、ラブコメ史上最もキラキラしていないヒロインにふるえが止まらない。

 芥川賞作家・綿矢りさによる同名小説を、『でーれーガールズ』の大九明子監督が映画化。現在、テレビドラマ『コウノドリ』でも話題の松岡茉優を主演に、ポップかつハードボイルドなラブコメディに仕上がっている。

 主人公・ヨシカの初恋相手・イチを『君の膵臓をたべたい』でも好演を見せた人気グループ・DISH//の北村匠海が、ヨシカに猛烈にアタックする同僚・ニをロックバンド・黒猫チェルシーの渡辺大知が演じる。
2017年の東京国際映画祭で観客賞受賞も納得の完成度で、テンポ良く突き進むヨシカの恋路に最後まで目が離せない。

「ファーーーーーッッック!!!」

「勝手にふるえてろ」のキャプチャ画像
©2017映画「勝手にふるえてろ」製作委員会

 これを破壊作と呼ぶべきか、閉じ込めていた感情が打ち破られ、笑いとなって放出される快感に酔いしれる。恋愛経験のないヨシカ(松岡茉優)の心の声が可視化され、混じり気のないホンネが炸裂する。

 ヨシカの感情一つで、その世界の明暗がころころ切り替わる。自分勝手で夢見がちなのに、そんなひねくれ者を真っ直ぐに応援したくなる。
一途が故に苦しみ続ける、不器用な恋愛模様に思わず笑みが出てしまう。だけど、決して他人事ではない。「これ、私だ」と観る者の生活を隠し撮りされたかのように晒け出される、ヨシカという普遍的な“絶滅危惧種”の悲喜こもごもに時折背筋が凍る。

 彼女を笑ったら高みの見物になる。同情したら同類になる。己自身の属性が試されるのだ。
爆笑の陰には冷笑が潜み、笑ってる己自身は何なのかと問いかける。そして、ヨシカという存在が観る者にとって写し鏡であることに気付いてしまう。

 そんなヨシカを体現する、本作が映画初主演となる松岡茉優の表現の振り幅に度肝を抜かれる。
イチ(北村匠海)が自分と同じ東京在住であることを知った時のテンション爆上げの笑顔から、ニ(渡辺大知)とデートする時の軽蔑心丸出しの目つきまで、24歳OLの等身大の恋愛にまつわる喜怒哀楽を隅々まで楽しめる。

 家の中で感情がはち切れて「ファーーーッッック!!!」と絶叫する様など、全く新しいタイプのコメディエンヌとして強烈な印象を叩きつける。

どんなに口が悪くてもチャーミングなヒロイン

「勝手にふるえてろ」のキャプチャ画像
©2017映画「勝手にふるえてろ」製作委員会

 ヨシカを苦しめるのは自意識であり、経験がないのに恋愛弱者に見られないように振る舞い、その嘘が曝け出されると感情が爆発してしまう。
ひたすら純粋に愛してくれるニの気持ちを素直に受け止めず、他人の悪い部分しか見えない。

 それは臆病だから、10年間も片思いしているから、それを諦めないから。
どれも切実な理由だからこそ、初恋を諦めきれなかった彼女のハートブレイクに涙してしまう。

 大きな音が鳴るように心が折れ、今まで偽ってきた世界が孤独で埋め尽くされる時、ヨシカの幸せを心から願ってしまう。
こんなに口が悪くて無駄に尖っていても、彼女の最高の笑顔を見てしまったからにはチャーミングに思えてくる。

 まるでニにとってのヨシカのように、誰も彼女を放っておけない。ニが激情を持って彼女に投げかける言葉は、観る者の気持ちを代弁してくれるかのようだ。

 金髪店員、最寄駅の駅員、釣りおじさん、毎日オカリナを吹いてる隣人など、脇を固めるキャラクターがどれも印象に残る。
どこか幻想的に美化された記憶の中の初恋相手・イチと、あまりに現実的で人間味溢れる同僚・ニの違いも魅力的だ。

 小刻みにテンポ良くセリフが繰り出され、まさかの歌唱シーンなど数々の演出の巧妙さに唸る。ヨシカは絶望の淵に立たされるが、救いようのない物語として着地せず、ちゃんと希望が描かれることでその先の先まで想像を楽しめる。

 本作がクリスマスシーズンに公開されることが痛快に思う。

 ヨシカをカップルで笑っても、独り身で泣いても、どちら側で見ても彼女が愛されることに変わりはないだろう。それが現実には成せない、映画が成せる技でもある。誰にも知られず、恋の痛手に苦しみ続ける女の子が、こんなにも最高の形でチャーミングに描かれるのだから。

ストーリー

 24歳のOL・ヨシカ(松岡茉優)は絶滅した動物を夜な夜なネットで調べるのが趣味で、中学時代から10年間、ずっと片思いをしてきた同級生・イチ(北村匠海)が今も忘れられない。

 これまで恋愛経験のなかった彼女、ある日会社の同僚・ニ(渡辺大知)に告白される。初めての経験に舞い上がるも、ニとの関係にいまいち馴染めず、ある出来事をきっかけにイチに再び会おうと決意する。
SNSで同級生の名前を騙って同窓会を計画し、憧れの彼との再会を果たすが……。

12月23日(土・祝)、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル池袋ほか全国ロードショー

監督・脚本:大九明子
原作:綿矢りさ著『勝手にふるえてろ』文春文庫刊
キャスト: 松岡茉優、渡辺大知(黒猫チェルシー)、石橋杏奈、北村匠海(DISH//)、 古舘寛治、片桐はいり
配給:ファントム・フィルム
2017年/日本映画/117分


Text/たけうちんぐ

次回は <素敵なおじさまとイケメンが共闘する天国『キングスマン:ゴールデン・サークル』>です。
スパイ機関「キングスマン」が麻薬組織「ゴールデン・サークル」のミサイル攻撃によって壊滅される。エージェント・エグジーは仲間の仇を取りに、そして世界から平和を取り戻すためにアメリカへと向かう——。世界中で大ヒットした『キングスマン』の続編。

ライタープロフィール

たけうちんぐ
ライター/映像作家
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