人は一人では生きられない

「火花」宣伝画像③ 2017『火花』製作委員会

 徳永も神谷も残酷なまでに新人たちに座を奪われ、仕事もお金も得られず芸人生活を窮めていく。
夢追い人なら、やがて決断する時が来る。そこにあるのは蝉の鳴き声のように、星が消え去る時の一瞬の光のように、大きな声と眩い光で放たれる煌めきである。

 ボケるだけだとただのバカになる。ツッコミ待ちの人生では何も始まらない。自分の良さや悪さに気付かなくても、それを教えてくれるのは他人だったりする。「それは違うやろ」「何考えてんねん」と言ってくれて、本来向かっていた道へ正してくれる。そんな徳永と神谷のような“ボケとツッコミ”の関係性は、漫才師に限らず誰しもがなり得ることだ。

 人は一人では生きられない。それを10年間駆け抜けても全く芽が出なかった者たちの、“真の栄誉”を通して描かれる。
売れることが一番であっても、それが全てではない。栄光の陰で人知れず確かに輝き、その光はきっと死ぬまで絶えないことを物語っている。

 エンディングを飾るのは、ビートたけしの『浅草キッド』の菅田将暉と桐谷健太によるカバー。
ビートたけし、板尾創路、又吉直樹という三世代のお笑い芸人の血筋が一つに繋がり、夢を見続ける者への応援歌でありながら、夢を諦めた者への鎮魂歌のようにも聴こえる。
それはダサくても情けなくても、がむしゃらに夢を追いかけることを肯定してくれているかのようだ。

ストーリー

 お笑いコンビ・スパークスとしてデビューをした徳永(菅田将暉)は一向に売れる気配がなく、悶々とした日々を過ごしていた。

 そんなある日、営業で出向いた熱海の花火大会で先輩芸人・神谷(桐谷健太)の型破りな“常識を覆す”漫才に衝撃を受け、弟子入りをする。

 互いに全く芽が出なくても、神谷の同居人・真樹(木村文乃)と三人でボケてツッコむ日々が賑やかで、徳永の生活は輝き出した。
だが、そんな日々は長くは続かなかった――。

11月23日(木)、全国東宝系にてロードショー

監督:板尾創路
原作:又吉直樹『火花』(文藝春秋 刊)
キャスト: 菅田将暉、桐谷健太 他
主題歌:菅田将暉×桐谷健太「浅草キッド」(作詞・作曲:ビートたけし)
配給:東宝
2017年/日本映画/121分
URL:『火花』公式サイト

Text/たけうちんぐ

次回は<“恋人と元彼の間で揺れる・・・ありふれた恋愛映画の先を描く魚喃キリコ原作『南瓜とマヨネーズ』>です。
ツチダは恋人の夢を支えるためにキャバクラで生活費を稼ぐ中、元恋人に再会し、彼にのめり込んでいく——。魚喃キリコの代表作を臼田あさ美×太賀で映画化。