死んだら姿形は変わり、意識も無くなる。当然のごとく、生きていた頃の美しさなんて土に埋められるか、燃やされてしまう。
でも、トリシャは違う。彼女は死んだ後も美しく、ビヨンセにもケイティ・ペリーにも、アンジェリーナ・ジョリーにもジュリア・ロバーツにもなる。
これは美しくあり続けたいトリシャと、その望みを叶える友人たちの真実の“家族”の物語です。
死んだ後にセレブのメイクを施してもらい、“美しく逝く”一人のトランスジェンダーの実話として、本作は2016年・第29回東京国際映画祭で最優秀男優賞と観客賞を受賞し、批評家から絶大な支持を受けた。
ジュン・ロブレス・ラナがパオロ・バレステロスを主演に、この世にかつて実在したトリシャが自分らしくあり続けた生き様を、豊かな色彩で丁寧に描き出している。
“美”は死んでも終わらない
トランスジェンダーとして生きることで挫折から成功、暴力から愛まで、トリシャを通じてその世界を知る。どんなに他人から蔑まれても決して歪まず、ブレずに自分を保てるのは、彼女の美意識のおかげだ。
棺桶に入ったトリシャの顔に、アンジェリーナ・ジョリーをはじめ様々なセレブにそっくりなメイクが施される。幾夜にも行われる埋葬前の儀式には挟み込まれるようにトリシャの人生が回想され、本物のセレブにはなれなくても華やかに謳歌した姿が切り取られる。
普通だったら、毎回顔が違う死者に戸惑うはずだろう。でも、トリシャの美しさへの憧れと、波乱に満ちた彼女の日々を覗くことで、「美しくあり続けたい」という切実な意志が伝わる。
世間からマイノリティとされる存在でも、まるで映画の主人公のように振る舞い、常に輝こうとするトリシャの姿が胸を打つ。
現に今、映画化されて多くの人々がその美しさを見ることになるのだから、死してなお美の意識が健在しているのだ。
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